★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第百六十二段 ●  線路は伸びるよ

 今年の6月は、暑かった。
 そんな6月のある日、杉野君が問題を持ってやってきた。もっとも、「問題を持っている」というのは、あとからわかったことなのだが……。
「暑いですね」
「本当だね。夏日だってさ」
「こう暑いとレールも伸びますよね」
「は? 何のレール」
「電車の線路ですよ」
「そりゃ、レールは金属でできているんだから伸びるだろうけど、暑さの表現としてはあまり使わないんじゃない?」
「私は使いますよ」
「でも、レールが伸びたら大変だぞ。レールが地面から持ち上がっちゃうじゃないか!」
「あ、やっと、話に乗ってきてくれましたね。そうなんですよ。レールが伸びたら、大変なんですよ。レールとレールがぶつかって、持ち上がったり、曲がったりしちゃうでしょうね」
「あ、杉野君。わかった。そうならないように、何か仕掛けがあるんだな……、その言い方は……」
「その通り。電車に乗っていると、リズミカルに『ガタンガタン』って振動するでしょ」
「するする」
「あれは、隙間の音なんですよ」
「隙間の音?」
「そう、レールとレールとのつなぎ目に隙間があるんですよ。そこを電車が通ると『ガタンガタン』と音がするんです」
「でも、どうして、隙間があるの? 詰めておいたら、そんな振動もすくないのに……」
「本気で聞いているですか?」
「え? 嘘だよ。わかったよ。暑さ対策だね。レールが伸びても、浮き上がったり、曲がったりしないように、あらかじめ隙間が空けてあるわけだ」
「その通り! そこで、こんな問題はいかがですか?」

   問題     A M B
      ――――――━━━━━━
         R1 ↑↑ R2

 上の図のように、長さが12mの線路が2本(R1とR2)、すこしの隙間もなく敷かれていた。AとBの部分はきちんと固定されていたのだが、つなぎ目であるMの部分は固定されていなかった。このため、夏の暑いときに、R1もR2もそれぞれ1pだけ伸びてしまった。その結果、Mの部分が地面から浮き上がってしまった。
 さて、線路は地面からどれくらい浮き上がることになるか? 下の(1)〜(6)から選びなさい。

 (1) ダンゴムシが通れるくらい
 (2) コオロギが通れるくらい
 (3) ネズミが通れるくらい
 (4) 子犬が通れるくらい
 (5) 人が通れるくらい
 (6) ゾウが通れるくらい

 答えはあとで……。


【メモ】

◆鉄道の2本のレールの間隔のことを、「ゲージ(軌間)」という。
 軌間1435mmのものは「標準軌」、それより大きいものは「広軌」、小さいものは「狭軌」と呼ばれている。

◆そりゃ、広い方が、安定走行ができし、高速走行に対しても有利だ。しかし、建設費、運営費が高くなるという欠点がある。

◆日本の新幹線や私鉄の一部は、標準軌を使っている。JR在来線や私鉄の大部分は1067mmの狭軌だ。

◆1872年、新橋−横浜間で、初めて鉄道が開通したが、このときの機関車、レールはイギリスのものだった。

◆レールとレールの継目は、騒音発生の原因にもなるので、1本のレールの長さはできるだけ長くしたほうがいい。しかし、実際に製造するとなると、技術的にも、場所面にもむずかしく、日本では30kgレールが20m、そのほかは25mが標準の長さとなっている。

◆1本のレールとして、世界最長のものは、日本にある。52.57kmのつなぎ目なしのレールがあるそうだ。
 使われているのは、青函トンネル内。トンネルの中は、比較的温度が一定。だから、レールの伸び縮みがすくない。そこで、こんなに長いレールが実現したということだ。

◆ちょっと思い出してください。
 直線レールを進行中の電車が急停車した場合、乗客は電車の進行方向に向かって前に倒れるか、後ろに倒れるか? 
「慣性の法則」ですね。それまでの運動を維持しようとするわけだから、前に倒れることになる。

◆吊革や握り棒を持たずに、揺れる電車の中で、足の位置を動かすことなく、どれだけがんばることができるか――そんなことに挑戦しているかわいい男子高校生を見かけたことがある。

◆サーフィン用語で、サーフボードの表は「デッキ」。側面は、「レール」。

◆『悪の華』『パリの憂愁』で知られるフランスの詩人は、ボードレール(1821〜1867)。

◆芸術は永く、人生は短いことを端的に表した芥川龍之介の言葉。
「人生は一行のボードレールにも若(し)かない」

◆では、答え。ちょっと図が極端だけど、R1が地面から持ち上がったところを、下の図のように表してみた。

         C
       /|
      / |
    c /  |
    /   |b
   /    |
  /     |
 A ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄M
     a


 aの長さは、問題にあるように12m(1200cm)。cの長さは、12m01p(1201p)。
 さあ、たった1p伸びただけで、bの長さがどれくらいになるのか、計算してみよう。

◆使うのは、「三平方の定理」。別名、「ピタゴラスの定理」と呼ばれているものだ。現在では、中学3年生の数学で扱われている。
 上の図でいえば、∠AMC=90度 だから、下記の式が成り立つってこと。

 a^2+b^2=c^2  ※「^2」は、2乗を表す。

◆では、数値を代入してみよう! 単位は、pで統一しておこう。(その方がやりやすいと、杉野君がいっていた)

 1200^2+b^2=1201^2

 1200^2+b^2=1201^2

 1440000+b^2=1442401

 したがって、

 b^2=1442401−1440000
   =2401

◆bの2乗が、2401ということがわかった。2乗して2401になるのは……、さすが稲田君、うまくいくように問題を作っておいてくれたのだ。
 2乗して2401になるのは、49だ。
 本当いうと、2乗して2401になる数は、−49ってのもあるんだけど、答えがマイナスってことは考えられないから、却下。

◆つまり、b=49(p)ということだ。本文中の選択肢だと、「(4) 子犬が通れるくらい」ってことになるかな? コオロギを予想していたから、ちょっとびっくりした。

◆レールと枕木を固定させる釘は、「犬釘」と呼ばれている。釘の頭部の形から、この名前がつけられているらしい。
 先の問題の答えが「子犬」だったことと、直接の関係はない。

◆電卓で2乗を計算するとき、みなさんはどうされてます?
 たとえば、123×123 を計算するとき、こんな順番で押してませんか?

 「1」「2」「3」「×」「1」「2」「3」「=」

「そうじゃないんですか?」
と、稲田君も聞いてきたから、彼も知らなかったようだ。もっと楽に計算する押し方がある。こうすれば、いい。

 「1」「2」「3」「×」「=」


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