★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第百六十三段 ●  梅雨のバシャーッ

「あなた! 何、その格好! びしょびしょじゃないの!」
「ああ、やられちゃったよ」
「どうしたの? 車にはねかけられたの?」
「その通り。歩いてたら、バシャーッとね」
「何よ、その車! マナーを知らないんだから。水たまりを通るときには、スピードを落とすのよ!」
「そうなんだけど……。ま、そんなに言うなよ。誰でもあり得ることなんだから……」

「――って、ことがあったんだよ。稲田君」
「梅雨の時期はよくあるよね、そのバシャーッは。あれやられたら、はら立つよね。でも、ある程度仕方ないよね」
「あれ、稲田君もよくやるの? バシャーッを?」
「ううん」
「じゃ、よくかけられるの?」
「いいや、そうじゃなくって、実は、車のタイヤっていうのは、バシャーッをするように作られているんだ。だから、ある程度は仕方がないっていうことさ」
「え? バシャーッをするように作られてる? まさか……」
「本当だよ」
「どうして?」
「え〜っと、どうやって説明しようかな……。あのね。冬に凍った道を歩いてて、滑ったことない?」
「あるある。つるっとね」
「あんまり気にしないで歩いているけどね、実は、『歩く』って作業は、『足の裏で地面を後ろの方に押して、その反作用で体を前に進める』ってことなんだ」
「そんなむずかしいことを考えて歩いたことはないな〜」

「でも、そうなんだよ。この『足の裏で地面を後ろの方に押す』ときに滑らないのは、足の裏や靴の底と地面の間の
摩擦のおかげなんだ」
「へぇ〜。じゃあ、摩擦がなかったら、歩けないんだね」
「そういうこと」
「それが、氷の上だと……」
「その摩擦が小さいから、滑って転んで大分県ってわけだ」
「そのフレーズは、久々に聞いたよ」
「じゃあ、稲田君。自動車の場合は?」
「自動車や電車でも同じだよ。タイヤと地面との摩擦、車輪とレールとの摩擦が小さすぎると、車は空回りしてしまうんだ」
「スリップってやつだ」
「そうそう。だからね、自動車のタイヤには、ある工夫がされてあるんだ」
「どんな工夫?」
「知らないの? 刻み目が入ってるだろ」
「ああ、あれね。模様じゃなかっんだ……」
「当たり前だろ。あの刻み目のおかげで、タイヤと地面との摩擦が増えて、車が走りやすくなるんだ」
「ふぅ〜ん」
「特に路面が雨で濡れて、タイヤと道路の間に水の層ができてしまうと、そりゃもう大変。タイヤが滑って滑って運転不能になっちゃうんだ。それを防止するために、タイヤの刻み目は、タイヤの下にある水を外側にはね飛ばすようにも刻まれているんだ」
「ああ、だから、『バシャーッはある程度必然的』ってわけか……」
「そう。だから、普通に走っていても、自動車ってのは泥水をはね飛ばすわけだ。そういうふうに作られてるんだから……」
「じゃあ、雨の日に歩くときには、もっと気をつけるようにするよ。そうじゃないと、また、水もしたたるいい男になってしまう」
「そのフレーズも古いなぁ」


【メモ】

◆歩く……足で進むこと。(岩波国語辞典より)

◆変わり種自転車ということで、四角いタイヤの自転車に乗ったことがある。ズッコンバッタン、ギッコンガッタン……。お尻に悪そうだった。

◆どんな刻みを入れれば、
タイヤと道路との摩擦を増やすことができるか? どんな刻みを入れれば、うまく道路上の水を外へはね飛ばすことができるか?
 タイヤを扱う会社は、雨の日も、風の日も研究しているはずだ。

◆飛行機のタイヤにも、刻み目は入っている。しかし、自動車のタイヤの刻み目とは、ずいぶん異なる。縦に深く刻みが入っているのだ。これは、タイヤが横滑りするのを防ぐため。

機関車は、わざと重たく作ってある。
――なんて話を聞いたことがある。これは、本当だ。
 機関車が後続の貨車や客車を引っ張る力は、機関車の動輪とレールとの間の摩擦力の大きさで決まってくる。
 だから、貨車や客車が重くなって、機関車の動輪とレールとの摩擦力より大きくなると……、機関車の動輪は空回りすることになる。
 これは、エンジンの能力の問題ではない。いくらエンジンが頑張っても、エンジンを性能のよいものに交換しても、走り出すことはできないのだ。
 ならば、どうするか?
 摩擦力を大きくすればいいわけだ。
 摩擦力は、物と物とが接触する面の間にはたらく圧力に比例する。だから、機関車をわざと重たく作って、動輪とレールの間にはたらく圧力を大きくしてやれば、摩擦力も大きくなる。

◆人気テレビ番組『
機関車トーマス』に登場する機関車たちのリスト。抜けていたらごめんね。

 車体番号1 トーマス
 車体番号2 エドワード
 車体番号3 ヘンリー
 車体番号4 ゴードン
 車体番号5 ジェームス
 車体番号6 パーシー
 車体番号7 トビー
 車体番号8 ダック(本名は、モンタギュー)
 車体番号9 ドナルド(ダグラスとは双子)
 車体番号10 ダグラス
 車体番号11 オリバー

◆トーマスは、ソドー島の中を走るソドー鉄道の一員。この鉄道会社でいちばん偉いのが、トップハムハット卿。

◆雨の中を高速で走ると、ハンドル操作が不能になることがある。「
ハイドロプレーニング現象」という。
 水がたまった路面を高速走行すると、タイヤが水を排除しきれなくなってタイヤと路面の間に水膜ができてしまうのだ。この現象は、
 タイヤ空気圧が低いほど、
 タイヤが摩耗しているほど、
 タイヤの幅が広いほど、
 タイヤ荷重が小さいほど、
 水深が大きいほど、
 高速で走行するほど、
発生しやすい。注意しよう。

◆フランスの物理学者クーロン(1736〜1806)は、1784年にねじれ秤を考案し、これにより静電気力・磁気力・摩擦に関する法則を発見している。電気量の単位にも、その名を残している。

◆DJ技のひとつに「スクラッチ」がある。レコードとレコード針との摩擦音を出すテクニックで、「キュッキュッ」とやっているあれだ。

◆のこぎりは、木材の摩擦をさけるためにある工夫がされている。刃先をよく見てほしい。刃先が交互に曲がっているのがわかる。これを、「アサリ」という。

◆「
摩天楼」という言葉がある。「高層建築物」ぐらいの意味だろうと思って、今まで詳しく調べなかったが、すこし掘り下げると、そうかそうかと納得した。「天」を「摩(す)る」「楼閣」ということだったんだ。だから、英語でもskyscraper。
 sky……天  scrape……こする  er……もの

◆岩崎宏美が、ずいぶん昔に、『摩天楼』という曲を歌っていた。

◆泥水をかけられて汚れた衣服をどうするか? 普通に洗濯しても、泥の汚れはなかなか落ちない。
 こんなときは、スクラブ入りの洗顔フォームを使うとよいらしい。テレビでやっていた。
 汚れた部分に水をなじませ、次に、洗顔フォームをなじませる。あとは、普通に洗濯機で洗濯する。これで、嘘のようにきれいに汚れが落ちるそうだ。

◆では、泥水をかけられて、害された気分はどうするか? う〜ん、これはむずかしい。


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