● 第百六十五段 ● 12年に一度、階名で歌おう!
「ド〜レ〜ミ〜ファ〜ソ〜ラ〜シ〜ド〜」
「どうしたの? 正月から変だよ」
「いやね、稲田君、絶対音感がないんで、こうしないと音程がとれないんだよ」
「どうして音程をとらなくちゃいけないんだ?」
「今年はね、特別の年なんだよ」
「そりゃ、21世紀の始まりだからね。100年に一度のことだ」
「そうだね。でも、こっちの話はもうすこしスケールの小さいことなんだ。ミ〜ド〜」
「ど〜いうこと?」
「ドレミだけを使って文章を作るとなると、それはそれは大変なことなんだ。稲田君は、さだまさしの『シラミ騒動』って歌、知ってる?」
「知らない」
「あの歌は、階名だけで歌詞を作るという離れ業をやってるんだけど、普通、そういうことはできないよね」
「だから、今年は何なの?」
「巳年だよ」
「は?」
「ミ・ド・シ。だから、12年に一度、階名で歌える年なんだよ。すごいだろ」
「すごいかな……」
「ところで稲田君、ヘビには、どうして足がないのかな?」
「昔はあったらしいよ」
「うそ!」
「本当だよ。ヘビの祖先はトカゲに似た生物だと考えられているんだけど、どうもミミズみたいに地中で生活していたようだよ」
「へぇ」
「だから、足で移動するより、体をくねらせた方が移動しやすかったんだ。その結果、足か退化したと考えられているんだ。今でも、ニシキヘビやボアなどには、小さな棘(とげ)のような後ろ足の痕跡が残っているよ」
「ふぅん」
「じゃあ、ついでに、お正月だから、もう一つ教えてあげよう」
「お、蛇腹だね。じゃない、太っ腹だね」
「初詣行った?」
「行ってない」
「神社に行くと、しめ縄があるでしょう。あれは、実は、ヘビを象徴しているんだな」
「へぇ」
「中国では、ヘビは水の神なんだ。農耕するものにとって水は大切なものだから、日本でもヘビが信仰されるようになったわけだよ。だから、鏡餅もヘビに関係ありといわれているよ」
「そうか。だから、水道管の先っぽが『蛇口』なんだね。単に水道管をヘビにたとえたわけじゃないんだ」
「そう。『蛇の目傘』ってのもあるよ。蛇の目の模様をつけたのには、ちゃんとわけがあったんだよ」
「すごい、すごい」
「それと、もう一つ……」
「いや、もう、蛇足なりそうだから、いいよ。そんなことより、稲田君もご一緒に歌おうよ。ミ〜ド〜シ〜」
【メモ】
◆旧約聖書で、イブにリンゴを食べろといった動物はヘビ。
◆ヤマタノオロチを退治したのはスサノオノミコト。ギリシャ神話で、九つの頭を持つ蛇「ヒュドラ」を退治したのはヘラクレス。
◆ギリシャ神話に登場する「ラーミア(ラミア)」という怪物は、頭と胸は女、胴体は蛇というスタイル。
「ラーミアがお前をさらっていくぞ〜」
なんて、言うことを聞かない子どもを脅すのにその名が使われた。
◆お酒を飲めない人は、「下戸」。逆に、大酒豪につけられた呼び名は「うわばみ」。大蛇が獲物をゴクリと飲むところからのネーミングだ。
◆マヤ族が信仰していた羽毛の生えたヘビの神は、「ケツァルコアトル」。
◆お金が返ってくるおまじないとして、財布の中に入れておくとよいものは蛇の皮。
◆「海千山千」とは、海に千年、山に千年住んだヘビのこと。
◆メキシコの国旗で、サボテンの上に留まっている鷲は、ヘビをくわえている。
◆紀州の『道成寺伝説』で、清姫が蛇に化けて渡ったのは日高川。
◆蛇踊りで有名な長崎くんちは、毎年、10月7日から9日まで行われる。
本当は、9月9日の重陽(ちようよう)の日を秋祭の日とするところから、「お九日(おくんち)」なんだけど、諸般の事情でそうでない場合も多い。
◆ヘビは、まばたきをしない。本当だ。
「目が乾いちゃうでしょう」
との声も聞こえそうだが、心配ご無用。ヘビが鱗に覆われているのは、ご存じだろうが、なんと、まぶたも鱗なのだ。しかも、この鱗が、無色透明。
我々人間の目は粘膜がむき出しになっているから乾燥に弱いのだが、ヘビの目は鱗に覆われているので、乾燥することがないのだ。
ちなみに、脱皮のときには、このまぶたとしての鱗も交換されることになる。これが本当の「目から鱗」。使い捨てのコンタクレンズみたいだ。
◆「レッド・スネーク・カムカム」
なんて言いながらの芸があった。あのヘビは人形だけど、テレビでは本物のヘビが笛に合わせて踊るような場面をみたことがある。
蛇使いに踊らされているヘビは、アジアコブラが主流。しかし、音感を買われての起用ではない。残念ながら、ヘビには音が聞こえないのだ。
◆では、なぜヘビは踊るのか?
彼らは優れた(振動を探知する)触覚と視覚をもっているのだ。
ヘビ使いはヘビのこの能力を利用して、かごを揺すったり、地面を足で鳴らしたりしながら、ヘビをコントロールしているわけだ。
◆ヘビ使いがコブラを踊らせるときに吹く笛は、「プーンギ」。
◆ヘビは、舌で臭いをかぐ。
先が2つに割れた舌を出してチロチロとやっているのは、臭いを感じ取っているのだ。ああやって、臭いの分子を口蓋の臭覚細胞が集まっているところ(ヤコブソン器官)まで運ぶのだ。
◆もっとすごい感覚器官を持ったヘビもいる。
ガラガラヘビやマムシの仲間には、眼の前下方に2つの「ピット」と呼ばれる窪みがある。この左右1対のピットで、哺乳類や鳥類の体表から発せられる赤外線を立体的にとらえることができるのだ。
「サイドワインダー」という熱源探査ミサイルがあるが、同じ原理だ。
◆仮面ライダーは、「サイクロン」というバイクに乗っていたが、これは、もともと、インド洋に発生する巨大な熱帯性低気圧の名前。ギリシャ語の「蛇のとぐろ」から名付けられている。
◆■ アンリ・ルソー ■
1844〜1910、フランスの画家。ラバル生れ。「素朴派」を代表する画家で、正統的な形体把握、色彩用法、構図法にとらわれずに特異な画面を作りあげ、幻想的、夢幻的な絵画世界を作り上げた。代表作に、『蛇使いの女』『飢えたライオン』『眠るアラビア人』などの幻想的な作品きがある。
◆沖縄・奄美方面の「三線(さんしん)」という楽器がある。本土では、「蛇皮線(じゃびせん)」とも呼ばれる。
◆日本に生息する毒ヘビは2種類。マムシとハブ。
◆ハブなどの毒ヘビの天敵とされるマングースは、ネコイタチとも呼ばれる
実は、マングースとハブの対戦ショーを、奄美大島でみたことがある。やはり、マングースが強かったのだが、「よし、とどめだ」というところで、レフリーが両者を分けてしまった。そして、
「はい、マングースの勝ち〜!」
◆ひどく恐れ嫌うことを2つの動物を引きあいに出して、「だかつの如く嫌う」というが、この「だかつ」を漢字で書くと、「蛇」と「蠍(さそり)」。
◆ヘビは、日本医師会のシンボルマークにもなっている。
◆比重が4あるいは5以上の金属は「ヘビー・メタル」。70年代終わりからのハード・ロックにも「ヘビー・メタル」は存在する。
1960年代後半にアメリカのロックバンド「ステッペンウルフ」が、『Born To Be Wild 』という曲を歌っており、その中で、「重金属(ヘビーメタル)の雷」という歌詞が登場している。これが、音楽の「ヘビメタ」の語源だと言われている。
◆「三すくみ」といえば、ヘビ、カエルとナメクジ。
◆満員電車に乗っている鳥は「コンドル」。すいている電車に乗っているヘビは「ガラガラヘビ」
◆『ガラガラヘビがやってきた』は、とんねるずのヒット曲。
◆ヘビの首はどこにあるか?
「お〜い、ヘビ」
と呼び止めたとき、振り返って曲げた部分が首。失礼しました。
◆しっぽならわかりやすい。
ヘビにも肛門があるから、それより後ろがしっぽということになる。