● 第百七十段 ● 勉強好きなライオン
ライオンの中にもいろんなライオンがいて、「勉強好きなライオン」のことを「スタディ」+「ライオン」で、「スタディオン」といいます。
――ごめんなさい、嘘です。私たちが日常何気なく使っている言葉でも、よくよく調べてみれば、そういう意味だったのかということがあります。
「スタディオン」は、長さの単位です。ギリシャでは、最近まで使われていました。
オリンピックやサッカーなど、各種の運動競技行われる場所を一般的に「スタディアム」といいますが、これが、実は、「スタディオン」に由来していると初めて知ったときは、本当に驚いたものです。
え、初めて知りました? じゃあ、由来をスタディしておきましょう。スタディオンの起源は、バビロニアのようです。その長さの定義の仕方がなかなかユニークなんです。
朝の太陽が地平線にほんのすこし見えたとき、歩き始めます。そして、完全に太陽が見えるようになるまでにあるいた距離――それが、「1スダディオン」なのです。
これは、なかなか実用的です。太陽に向かって歩いていけば、時間を計る必要もありません。太陽の視直径は約32分の角度(1分は1度の60分の1の角度)なので、太陽がその角度だけ移動するには、約2分かかります。ま、簡単に言えば、2分間に歩く距離が1スタディオンということです。これは、約180m
になります。
もちろん、このスタディオンも時代や地域によって、すこしずつその長さが異なります。でも、実感しやすい単位だったと考えられます。
当時は、きっと、こんな会話もあったでしょう。
「あんたの村までは、どれくらいなんだべな?」
「60スタディア(「スタディア」は、「スタディオン」の複数形)ぐらいじゃねぇかなぁ」
「ほんじゃあ、わしの足なら2時間くらいでいけるべな」
当時の人は、「2時間で60スタディア」という基準の感覚は、持っていたようです。このようにして、遠い場所でも、だいたいの距離を表すことできたのです。
さて、スタジアムとの関連です。
古代オリンピックでは、1スタディオンの直線コースを持つ競技場を使用していました。したがって、1スタディオンが最短の競争距離でした、それ以上の距離になる競走は、走路を往復して行われました。
スタートラインとゴールラインが石で作られていたおかげで、今でも、その距離を測ることができる場所があります。
デルフォイ………178.35m
アテナイ…………184.96m
オリュンピア……191.27m
など、その長さはかなり異なっていることが分かります。
やがて、「スタディオン」は、競争そのものを指す言葉として使用されます。そして、今では、競技用のスペースと観覧席が備わっている建造物を指すようになったわけです。
「勉強好きライオン」は嘘ですが、「スタディオン」→「スタディアム」は、信頼できます。
【メモ】
◆「百獣の王」といえばライオン。「百花の王」といわれる花は、ボタン。「百薬の長」は、酒。「密林の王者」と呼ばれるのは、ターザン。
◆タンポポは英語で、「ダンデライオン(dandelion)」。そういえば、あの花を見ていると、ライオンの顔に、見えなくもない。
と思っていたのだが、元々はフランス語で、「ライオンの歯」という意味だそうだ。
◆サバンナに暮らすライオンがつくっている群れのことを、特に「プライド」という。
◆「地上のライオン」という意味の名前がある爬虫類は、「カメレオン」。
◆エジプトにある「スフィンクス」の頭は人間、体はライオン。
獅子の胴体に、ワシの頭と翼のあるのは「グリフィン」
シンガポールのシンボルは、「マーライオン」。頭はライオン、体は魚だ。
ライオンの頭、ヤギの胴、ドラゴンの尾を持った、ギリシャの伝説上の生き物は、「キマイラ」。
◆異なった遺伝子型が体の各部で混在する1個の個体のことを、生物学の用語で「キメラ」という。もちろん、上記の「キマイラ」が語源。
植物の台木と接ぎ穂の癒着部分も「キメラ」。
◆カンボジア語で、「シアヌーク」とは、「ライオンのあご」。
◆サンスクリット語で「ライオンの町」は、シンガポール
「美しい島」という意味を持ち、剣を持ったライオンが国旗に描かれているのは、スリランカ。
山で雷鳴がとどろくのを聞いて「ライオン山地」と名付けられたアフリカの国は、シェラレオネ。首都は、フリータウン。
◆現在のイギリス王家の紋章で、楯の右側に描かれているのは、ライオン。左側に描かれているのは、ユニコーン。
◆「君主はライオンの力とキツネのずるさが必要」と説いた、イタリアの政治家は、マキャベリ。
◆ベネチア映画祭では、作品賞の授賞者に金色のライオン像が贈られる。
◆ミュージカル『オズの魔法使い』で、ライオンがほしいと願っていたものは、勇気。
◆映画『サウンド・オブ・ミュージック』でも有名な白い花、エーデルワイス。別名は、「ライオンの足」。
◆エラトステネスが、地球の一周の長さを計算しようとしたのは有名だが、このとき彼が使った単位がスタディオンだ。
彼はエジプトのアレキサンドリアとシエネの間の経線の角度を7度12分、距離を5000スタディアとし、そこから地球一周を25万スタディアと計算した。これは、約45000qということになる。地球の一周は約40000qだから、当時としては、驚くべき精度で測量・計算したということになる。
恐るべし、エラトステネス。
◆■ エラトステネス ■
BC276頃〜196頃、古代ギリシアの地理学者、数学者。BC235年ごろ、プトレマイオス3世に招かれ、アレクサンドリアの「ムセイオン」の館長に就任。
地球を球形と考え、その円周の長さを影の角度から計測した。他の天文学、地理学上の業績も多い。
◆エラトステネスが館長を務めたという「ムセイオン」は、アレクサンドリアに設置された大研究機関。博物館という意味の「ミュージアム」は、これが語源。
◆博物館は「ミュージアム」。水族館は、英語で「アクアリウム」
◆エラトステネスは、あまりに博学なので、「ベータ」というあだ名が付いていたそうだ。「アルファの次」という意味だ。
しかし、「アルファの次」だとどうして、博学の意味があるのかが、無学なんで理解できない。
◆エラトステネスは、ケプラー、ヘロドトス、アリスタルコス、コペルニクスらとともに、月のクレーターの名前になっている。
地球も、月も、大変だ。
◆「エラトステネスのふるい」というのをご存じか?
「ふるい」は、子どもの砂場遊びセットにたいてい入っているのだが、名前を知らない子どもが多い。粉や粒状のものをその大きさによって選り分ける道具だ。漢字で書くと、「篩」。
◆しかし、「エラトステネスのふるい」は、砂場で遊ぶためのものではない。たくさんの整数の中から、素数を見つけるための「道具」だ。たとえば、1から100までの間にある素数を見つけてみよう。
その前に、「素数」って大丈夫? 1と自分自身しか、約数を持たない正の整数のこと。1は、素数じゃないよ。
◆下に1から100までの数を用意したから、プリントアウトして、以下の条件に合うものを、×印で消していってくださいね。
(1)1は素数じゃないので、消す。
(2)2は素数なので、○で囲む。2以外の偶数は消そう!
(3)3は素数なので、○で囲む。3以外の3の倍数は消そう!
(4)5は素数なので、○で囲む。5以外の5の倍数は消そう!
(5)7は素数なので、○で囲む。7以外の7の倍数は消そう!
ここでストップ。×されていない数は「ふるい」の上に残ったということ。残っている数字は、すべて、素数だ。さあ、何個あったかな?
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
31 32 33 34 35 36 37 38 39 40
41 42 43 44 45 46 47 48 49 50
51 52 53 54 55 56 57 58 59 60
61 62 63 64 65 66 67 68 69 70
71 72 73 74 75 76 77 78 79 80
81 82 83 84 85 86 87 88 89 90
91 92 93 94 95 96 97 98 99 100
◆1から100までの数だと、7の倍数までのチェックで十分。1から200までだと、13の倍数までのチェックが必要。
どうして、13の倍数までなのかは、中学3年生向けの問題。がんばれ!
え? 勉強嫌い?