★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第百六十八段 ●  √のルーツ

 中学校で√を習ったときは、どれほどの人がカルチャーショックを受けただろうか? 分数で表せない数がある! 今まで習ってきた数は、数のうちのほんの一部だったんだ!
 カルチャーショックであると同時に、数の世界の広がりを、まるで大海原に船で漕ぎ出すときのドキドキとして感じてもらえたら、数学を教えるものにとってこれほどうれしいことはない(今まで、言わなかったですか? 私は、数学が専門です)。
 この記号を扱う前に、平方根を定義しておかねばならない。
「2乗してaになる数を、aの平方根という」
 したがって、16の平方根は、+4と−4だ。2つある。0の平方根は、0だけだ。しかし、負の数の平方根は、実数の範囲では見つからない。
 これまでの説明では、まだ、√は登場しない。これからだ!
「5の平方根はなんですか?」
 これは、±2.2360679……だ。「富士山麓オーム鳴く」として覚えている方もおられるかもしれない。しかし、本当は、それだけではないのだ。「……」とあるように、そのあとにまだ数字が並ぶ。どれくらい並ぶかというと、ず〜っと並ぶ。0.13131313……のような数字の繰り返し部分が存在しないので、これは、分数では表すことができない(ちなみに、0.13131313……を分数で表すと13/99)。
 小数では書ききれない、分数では表せない――となると、今後とても面倒だ!
 そこで、2乗して5になる数を、記号を使って表そうという発想が出る。だから、むずかしくなんかない。簡単にするためにこの記号は生まれたんだ。中学生の諸君には、ここのところをぜひ理解してほしい。
 さて、2乗して5になる数は、±2.2360679……のように、正の場合と負の場合と2つある。正の場合を+√5、負の場合を−√5と表すことにする。したがって、
「5の平方根はなんですか?」
という問題には、
「±√5です」
と答えればよい。便利だ。これで、「富士山麓オーム鳴く」ともしばらくはおさらばできる。
 さて、√は、「ルート」と読む。この記号自体は、根号と呼ばれる。「ルート」は、root だ。「根」「根元」などという意味を持つ。昔、『ルーツ』というテレビドラマが大ヒットしたが、あれも同じ意味だ。だから、こんなふうに平方根をとらえればよい。
「ある数を2乗したら5になりました。では、2乗する前のもともとの数、根っこにある数はなんでしょう?」
 これが、±√5なのだ。

【メモ】

◆『ルーツ』『マルコムX自伝』を書いたのは、アメリカ人のアレックス・ヘイリー

◆さて、この√は、「根」を表すradixの「r」に由来するというのが、オイラーの説だ。ドイツ、フランス、イタリアなどでは、√5をR5と表していたこともある。

◆√を最初に使ったのは、チェコ生まれのルドルフ(1540〜1610)で、1525年に出版された「普通と呼ばれる代数の技巧的規則による速くて美しい計算」という本の中で、その記号が見られる。
 ただし、このころのルドルフが書いていた記号には、√の上の横棒がない。その形を想像してもらえれば、√の記号の形が「r」に由来しているというのも分かっていただけると思う。

◆ルドルフは、円周率の計算でも有名。
 彼は、πの近似値を小数点以下第35位まで計算している。そこで、ドイツでは円周率のことを「ルドルフの数」と呼んでいる。

◆現在の形のように、横棒をつけた形にしたのはデカルトだと言われている。

◆かなり昔なら、平方根を筆算を使って計算する方法を学校で習ったものだ。そんな方法を習っていない人でも、「平方根表」というものなら見たことがあるかもしれない。自分で計算しなくても、表から読みとることができるので、大変便利だった。

◆しかし、今は、もっといいものがある。電卓だ。
 ここで、ちょっと、お手持ちの電卓を使ってぜひ確かめてほしい。

  (1)「5」「+」「5」「=」
  (2)「5」「√」

 (1)は、5+5を計算している。こんなのはわざわざ電卓にさせなくても暗算で十分だ。(2)は、5の平方根の正の方を求めている。
 (1)では「=」のキー、(2)では「√」のキーを押せば、すぐに計算結果が表示される。
 が、その「すぐに」の時間が微妙に違うのだ。よく観察していると(2)の計算結果を表示するまでの時間が(1)よりも長くかかっているのがわかる。
 電卓も悩んでるんだとわかって、なんだかうれしくなる。

◆ワープロなんて使っていると、漢字が書けなくなるし。電卓なんて使っていると、計算力が落ちる。
 ――って言ったら、
「それは、『落ちる』んじゃなくて、すでに漢字力、計算力が落ちているか、最初から不足しているですよ」
と、杉野君のキツーイお言葉。

◆√5を「富士山麓にオーム鳴く」と覚えている人がある。しかし、これは、間違い。「に」は必要ない。正しくは、「富士山麓オーム鳴く」。

◆「富士山麓にオウム無く」
 確かに、現在、富士山麓に、オウム真理教の本部はない。


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