● 第百七十二段 ● 「リットル」って知っとる?
「1リットルも?」
稲田君はそれくらいスポーツドリンクが大好きです。
「1リットルって多くないよ。牛乳パックだって1リットルだよ!」
「それ、弁解になってないよ! 1リットルって1000立方センチメートルだぞ」
「そうだけど、そうじゃなかったって話、知ってる?」
あれ、どうも話の方向が違ってきた。
「そうだけど、そうじゃなかった? え? どうして? 1リットルは1000立方センチメートルだろ?」
「いいえ、もともと1リットルはセンチメートルとの関係はなかったんだ」
「ウソ! じゃあ、1リットルって、最初はどういう定義だったの?」
「まあまあ、待ってよ。これを飲んだらゆっくり説明するから……」
ああ、また、稲田君にきっかけを与えてしまった。
「1795年にフランスでメートル法が制定された当時の『1リットル』は……」
「へぇ、『リットル』はフランス生まれだったんだ」
「そのときの『リットル』は確かに、『1立方デシメートルに等しい』だったんだ」
「デシメートルって……1メートルの10分の1の長さのことだから、10センチメートルのことだよね?」
「そう。だから、10cm×10cm×10cmの立方体の体積、つまり、1000立方センチメートルが1リットルだったんだ」
「今と同じだよね」
「ところがだ、1901年の国際度量衡総会では、
『1気圧のもとで最大密度にある純粋な水1キログラムの占める体積』
と改めらたんだ」
「稲田くんは、年号まで暗記してるの?」
「変なところをつっこむなよ」
「ごめん、ごめん。つまり、『リットル』の定義から長さの単位が消えて、質量から1リットルを定義しということだね」
「そういうこと。この定義が長く使われたんだが、その間に技術が進んで、体積をかなり正確に測定できるようになったんだ。その結果、
1リットル=1000.028立方センチメートル
であることがわかったんだ」
「そんな細かな数字まで、稲田くんは暗記してるの?」
「だから、変なところをつっこむなって」
「でも、それじゃ、なんだか換算が面倒だね。1リットルは1000立方センチメートルよりもほんのすこしだけ大きいんだから……」
「換算だけの問題じゃないよ。1リットルと1000立方センチメートルが等しいと思いこんで作業を続けていると、このわずかな違いで、大きなミスを引き起こすことがある」
「そうだ、そうだ、場合によっては、人の命に関わることになるかもしれないね。……で、続きがあるんだね」
「そこで、1964年、国際度量衡総会は再度定義を改め、リットルを1立方デシメートル(=1000立方センチメートル)の特別の名称としたんだ。めでたしめでたし……だろ?」
「めでたかないよ。やっぱり、一度に1リットルってのは、多すぎる。そんなに、胃につっこむなよ!」
【メモ】
◆「リットル」は、体積(容積)の単位だ。アメリカでは「リッター(liter)」と呼ばれている。
◆「この冷蔵庫には、どれくらいはいるかな?」
なんてときも、リットルが用いられる。最近は、400リットルを超える冷蔵庫がよく売れているそうだ。
――なんて言われても、どれくらいの大きさかなかなか想像がつかない。体積のイメージを持つのは、なかなかむずかしいことなのです。
さて、「1リットル」と聞いて、みなさんは何をイメージしますか?
長さをイメージすることですらむずかしいですから、体積をイメージするのは、もっと大変です。
1リットルなら、1リットル入りの牛乳パックを思い浮かべましょう。
あの牛乳パック、底面がほぼ7p×7pの正方形になっていますから、だいたい20センチメートルの高さまで牛乳が入っていることになります。
◆え!? ということは、冷蔵庫に牛乳パックが400本分も入る?
信じられなくなったので、冷蔵庫のパンフレットを入手して調べてみた。
ある会社の冷蔵庫、404リットルと銘打っているが、これは、有効収納スペースの合計ではなかった。しかし、そのあたりの断りもちゃんとパンフレットには書いてあるので、これから購入を考えている人は、ちゃ〜んと読んだ方がよい。
先の機種の場合、実際の「食品収納スペースの目安」は、333リットルだった。
◆スーパーマーケットに行くと、缶入り飲料がズラ〜っと並んでいる。
暇だったときに、それらを全種類チェックしてたら……、あれ? 内容量の表示に2種類あることに気づいた。1つは「ミリリットル(ml)」、もう1つは「グラム(g)」。
この違いは何だ?
缶入りのお茶、紅茶、コーヒー、ポタージュスープ……。これらは、「グラム表示」だった。
コーラ、ジュース、スポーツ飲料……。これらは、ミリリットル表示だった。
そうか! わかった!
きっと、温めて飲む可能性があるものは、グラム表示なんだ。温度変化によって体積が増減するからだ。
だったら、コーラやジュースだって、グラム表示にすればいいのに……。この辺りの真相を知っておられる方は、ぜひ、教えてください。
◆そういえば、ガソリンはリットル単位で売っている。つまり、温度が低いときに買った方が特ってこと!
◆体積の単位に、「cc(シーシー)」というのがある。
今、手元に計量スプーンを持ってきているが、それを見ると、大さじには「15cc」と書かれてある。ついでに、計量カップには、「200cc」を発見できた。
◆エンジンの排気量も「cc」が使われることが多い。F1レースに参加できる車の排気量は、3000cc以下と決められている。
◆「cc」はよく見かける単位だが、いったい何なのか? そういえば、小学校や中学校の教科書で見た覚えがない。
「cc」は、英語の「cubic centimetre(立方センチメートル)」の省略形だ。つまり、「立方センチメートル」と意味するところは同じなのだ。
また、結果的に、ミリリットル(ml)とも同じ体積になる。
1cc=1cm^3=1ml
ただし、立方センチメートルの正規の記号は「cm^3」だから、単位の記号として「cc」を使用するのは、英語でも誤りとされているそうだ。
◆ビールの製造・販売が許されるのは、年間60キロリットル以上の生産能力を持ったメーカーに許されている。
◆摂氏0度、1気圧で、乾燥した空気1リットルと1円玉とでは、どちらが重いでしょう?
答えは、空気。空気1リットルは約1.3g。1円玉は、約1g。
これは、ずいぶん昔に計算してみた。多分、あっていると思うのだけど……。
◆「リットル」は、国際単位系の単位ではないが、それとの併用が認められている。単位記号は、「l」、あるいは、「L」を使います。
日本で「リットル」と言えば、筆記体の「l」をよく見かけるが、これは、国際的な記号とは認められていない。認められていないけど、数字の「1」と混同しちゃいそうなので、筆記体の「l」の方がありがたいなぁ。
◆ああ、そうか、大文字の「L」を使ったらいいんだ。