● 第百七十三段 ● 食パン1斤ください!
「食パン1斤ください!」
我が家の大人達の朝食は、もっぱら食パンだ。自分としては、バターをたっぷり塗って食べたいところだが、塩分の取りすぎに注意しなさいと言うことで、ちょっとだけ控えめにしている。残念だ。
しかし、もう一つ残念なことに、バターを控えめにすると、パンの味が分かってしまうのだ。中には、こんなパン、食べてられないなんてパンもある。おいしいパンなら、何も塗らなくても旨いのだ。だから、どこかの店でおいしい食パンを売っていると聞けば、一度は買わずにはいられない。
1年ほど前までは、遠くから食パンを取り寄せていた。わざわざ宅配便の代金まで払って取り寄せるわけだから、それほどおいしい食パンなのだ。本当に旨い。何も塗らなくても旨い。今のところ、あの食パンに勝る食パンを知らない。
しかし、いかんせん、いちいち申し込むのがめんどくさい。だから、定期的に、つまり、毎週毎週送ってもらう契約を結んだ。そうなると、注文する量が問題になる。食べる量よりも多めに購入すると、毎週毎週余らせてしまうことになる。食パンは冷凍保存できるのだが、毎週毎週余るのだから、やがて我が家の冷凍庫は食パンであふれかえってしまうことになる。
したがって、食べる量よりもすくなめに頼むことになる。だから、食パンが足りなくなることがある。そうなると、近くのそこそこおいしいと言われているパン屋さんで、冒頭の言葉を述べることになる。どうにかならないのかなぁと思いながら、冒頭の言葉を言っていた。
作りゃぁいい!
そりゃそうなのだが、パン屋さんの味を越えることができるのか? 我々にその技術があるのか?
そんなときに知ったのが、「ホームベーカリー」だ。
はっきり言って、期待していなかった。市販の食パンの味を越えることができるなんて無理だと思っていた。
でも、買ってみた。それが、ほぼ1年前。
1万円以上の物を買うときには、必ず値切ることにしている。千円値切って、さらに5斤分の材料まで付けてもらって、確か16000円だった。
さっそく作ってみた。サービスでもらった材料で作った食パンは、市販の食パン以下の味だった。しかし、その後、よ〜く考えて取り寄せた素材で作った食パンは、市販の食パンの味を越えていた。(まあまあ)旨い! もちろん、遠くから取り寄せていたあの食パンにはかなわないけれど、これなら合格という味だった。何も塗らなくても大丈夫だ。
6時間ほどかけて1斤しかできないのが難。しかし、朝に焼き上がるようにタイマーセットしておけば、夜中の時間を利用できて、しかも、焼きたてのパンが食べられるのだ。それほど文句はない。さらに、このホームベーカリーは、食パンにクルミなどもを入れることだってできるし、ケーキだって焼けるのだ。なかなかのスグレものだ。
最近のホームベーカリーは、ここまで来ている。今まで買うのをためらっていた人は、もう大丈夫。買い時です。
というわけで、今朝も、何も塗らなくても大丈夫な食パンに、バターをちょっと控えめに塗ったのでした。
【メモ】
◆食パンを小さなサイコロ状に刻んであげ、スープに浮かせるものは、クルトン。
◆なぞなぞ。
「パンはパンでも、食べられないパンは?」
答え。フライパン、トレパン等。
腐ったパンという答えもあるが、勇気があれば、食べられる?
◆なぞなそ
「ごはん、食パン、コーンフレーク、呼んだら返事をするのはどれ?」
答えは、食パン。耳があるから。
◆食パンの回りの色が濃い部分を「耳」と呼んでいる。では、真ん中の白い部分は何というのか? 「顔」?
このことについて、以前に読者の方から教えてもらったことがある。 だいたい、「耳」と呼んでいるが、「耳」という割には、耳が食パンの周りを囲んでいる。鍋に2つの持ち手がついているような、そんな感じだと、確かに「耳」という感じがするのだが……。
◆耳の部分を「外皮(がいひ)」といい、白い部分を「内相(ないそう)」ということがあるそうな。ただし、かなりの業界用語。
外皮を「クラスト」、内相を「クラム」と呼ぶことも。
◆食パンは切りにくい。特にできたての食パンは柔らかすぎて、切るのは至難の業。だから、パン屋さんは、ある程度時間が経ってからでないと切らない。
◆「食パン3斤ください!」
と言うと、長〜い食パンをもらえることがある。
「うん? おかしいな……」
鉛筆を1本、2本と数えるように、消しゴムを1個、2個と数えるように、食パンは1斤、2斤と数えるのだと思っていた。
調べて分かったのだが、実は、「斤」というのは、質量の単位だった。食パンは、「数える」物ではなかったのだ。
◆1958年までは「斤」という単位が、法定計量単位として使用されていた。砂糖などは、1斤いくらで売り買いされていたのだ。しかし、今では、かろうじて、食パンを1斤いくらで買う程度。
一般的には、「1斤=160匁=600g」。
だから、食パン1斤は600gということになるのだが、そんなに重いとは思えない。
◆1匁は、3.75g。
でも、匁についての話は、またの機会に。
◆実は、斤は計量するものによって、異なる「斤」が存在した。
大和目……180匁
大目………200匁
沈香目……210匁
白目………230匁
山目………250匁
◆面白いところでは、舶来品に使われた「英斤」。これは、1ポンドに近い120匁を1斤としている。
パンは舶来品だから、明治の頃のパン1斤は120匁(450g)だったのだ。それがどういうわけだか、今では、食パン1斤といえば、350g〜400gのものが主流になっている。
◆そうか、もともと食パン1斤は、1ポンドだったんだ。
◆斤は中国の古来からある単位で、「銖(しゅ)−分−両−斤(きん)」という系列の中で使われてきた。
「銖」というのは、は中くらいの大きさの秬黍(くろきび)100粒の質量を基準にしている。
1斤=16両
1両=4分
1分=6銖
1891年の度量衡法で、銖、分、両が廃止され、斤だけが、「1斤=160匁=600g」の扱いで残された。
◆ポンドの話もしたい。
私たちが「ポンド」を使うのはどんなとき?
ボクシングでは、「あ〜かコーナー、185ポンド……」などと言っている。ボウリングのボウルの重さの表示もポンドが使われている。
また、「パウンドケーキ」というのもある。バター、卵、砂糖をそれぞれ1ポンドずつ混ぜて作ることから名前が付いている。
◆1ポンドは約450g。
そういえば、バターは450gを単位として売られていることが多い。これは、1ポンドということなのだ。
◆ヤード・ポンド法の質量の単位には、ほかにグレーン[gr]やオンス[oz]がある。
まず、「グレーン(grain)」。
グレーンは古代オリエントの重量の単位で、大麦1粒の重さと考えられている。
ローマ人がこの単位をイギリスに持ち込んだと言われているようだが、いくつかあったグレーンとポンドの関係の中で、「5244gr=1lb」が普及したようだ。
◆次に「オンス(ounce)」。
「オンス」には、もともと「12分の1」という意味がある。つまり、1ポンドは12オンスだったのだ。
◆ヘンリー3世(1207〜1272)の頃は、1ポンドは12オンス、また5400グレーンとされた。しかし、これがどうしたわけか、1ポンドが16オンスに変化し、1584年、エリザベス1世(1533〜1603)のときには、
「7000グレーンを1ポンドとする」
と法律で決められたといわれている。つまり、以下のような関係が完成した。
1lb=16oz=7000gr
このポンドが、「常衡ポンド(avoirdupois pound)」と呼ばれている。
◆一方、トロイポンド(troy pound)や薬衡ポンドというのもあって、これらは5760グレーンを1ポンドとしている。
イギリスではもう廃止されたのだが、アメリカでは今でも、宝石・貴金属、薬の分野で使われている。常衡ポンドとトロイポンドを区別するために、常衡ポンドの単位記号には[lb(Av)]を、トロイポンドは[lb t]を用いることがある。
◆エリザベス1世以降は、ポンド、オンス、グレーンの関係は変化はない。しかし、1963年以降、ポンドの定義は、以下の通り、キログラムとの関係で定められている。
1lb=0.45359237kg
◆それまでのポンドの定義は、「英帝国標準ポンド原器に等しい質量を1lbとする」というものだった。
ヤードにしても、ポンドにしても、標準原器があったのだが、現在では、国際単位系の単位によって数値で定義がなされている。ヤード・ポンド法は、独立した単位系ではなくなったわけだ。
◆ちなみに、60kgの体重の人は、約132ポンドということになる。あなたは、何ポンド?