● 第百七十九段 ● 正方形は、長方形? 納得できません。
クイズ番組が大好きで、『アメリカ横断 ウルトラクイズ』『パネルクイズ アタック25』をはじめ、いくつかの番組に挑戦したことがあります。予選の段階で落ちてしまった場合がほとんどですが、それでも一応、練習を積んでから予選に参加するのです。
知識を増やしておくことはもちろんですが、それだけではダメ。
予選はたいていペーパー問題だから、他人よりも早く答える必要はありません。制限時間内に問題をこなせばよいのです。しかし、本戦になると、他人より早くボタンを押し、回答権を得なければなりません。だから、「早押し」の練習が必要になります。「一般に『日本三名園』といえば、金沢の兼六園、み……」
ハイ、ここでボタンを押す!!
クイズ番組に挑戦しようという人なら、日本三名園くらいはスラスラ答えらないとね。金沢の兼六園、水戸の偕楽園、岡山の後楽園です。
「み……」まで問題が読まれてますから、これは「水戸の偕楽園」の「み」だと推測できます。となると残るのは「岡山の後楽園」、それが答え。なかなか奥が深いでしょ。
もっと慣れた人になると、「金沢の兼六園」の「えん」で押します。問題を読む人は、文章を急に止められないので、勢いで「み……」を読んでしまう。それをヒントに回答するわけです。「読ませ押し」と呼ばれるテクニックです。
クイズではないが、日常生活の中で、何らかの知識を尋ねられることは多くあります。
「ほら、あれ、何かあの木の下にいるよ、何かな?」
そういわれてあなたはそちらを見ます。何かがいます。一般的なスズメのサイズよりは大きな鳥です。でも、鳥に関してあまり知らないので、それ以上わかりません。しかたなく、あなたは次のように答えます。
「鳥だよ」
イヌじゃなくて、ネコじゃなくて、クジラじゃなくて、鳥です。あまりにそっけない答ですが、間違ってはいません。
「なんだろうね、スズメよりは大きいようだけど……」
と答えた方が、嫌われないかと思う。
その鳥は、鳥類のキジ目キジ科クジャク属のインドクジャクでした。名前はもちろん、クジャク属もキジ目もわからなかったので、「鳥だよ」と答えたのです。インドクジャクだとわかる人は、インドクジャクだと答えましょうね。
正方形を指さして、「これは、長方形です」と言う友人がいたとしましょう。これは、間違っていますか?
その友人は、それが正方形であることはわかっているのかもしれません。わかっていて、あなたを試しているのかも……。
間違っていませんね。正しいのです。その図形は、確かに長方形です。わかりやすく言えば、長方形の仲間の正方形です。
ところが、長方形と正方形とは全く別、相容れないものだと主張して引かない人がいます。手を変え品を変え説明しても、
「いい大人が、何を言っているのですか!」
そこまで言われたこともあります。そんな人には、インドクジャクを指さして、
「あれは、鳥です。私は間違ってますか?」
と言ってあげましょう。信念が揺らぐはずです。
【メモ】
◆直径10cmの円に内接する正方形の面積は、50cu。途中の計算は、みなさんに任せます。
◆鳥とインドクジャクの例なら納得できるのに、長方形と正方形の例なら納得できない――つまりそれはきっと、長方形の定義、正方形の定義をまちがって理解していて、「長方形」といわれたときに、「典型的な長方形」の例しか頭の中に思い浮かばないのでしょう。
同様に「長方形は、平行四辺形である」。これはどうですか?
この文章も正しいのですが、先の例よりもこちらの方がより大きく違和感を感じる人が多いようです。
◆「だって、長方形と平行四辺形は全然違うよ……」
う〜ん。では、四角形についてその「進化の過程」を遡ってお話ししましょう。
究極の四角形は正方形です。正方形の定義は次の通りです。
■ 正方形(正四角形) ■
4つの角がすべて等しく,
4つの辺もすべて等しい四角形を「正方形」という
このように条件が2つあるのです。片方の条件だけでは、正方形とは呼べません。
◆正方形の2つの条件のうちの1つを外すと、別の名前の四角形の定義になります。
■ 長方形 ■
4つの角がすべて等しい四角形を「長方形」という
■ 菱形 ■
4つの辺がすべて等しい四角形を「菱形」という
◆ここでしっかりとわかっておいてもらいたいことは、「4つの角がすべて等しい四角形」はすべて、「長方形」と呼ばれる資格があるということです。したがって、正方形だって「長方形」の称号を持っているのです。「長方形」がさらに進化を遂げて、「正方形」という新たな称号を手に入れたというわけです。
同様に、正方形は「菱形」の称号も持っています。「菱形」が進化したものが、「正方形」なのです。
/\ /\
/ × \
/ 長 /正\ 菱 \
\ \ / /
\ × /
\/ \/
正方形は、長方形の仲間であり、菱形の仲間でもあります。図で表すと、上のような感じです。
◆平行四辺形の定義は、以下の通り。
■ 平行四辺形 ■
2組の向かい合う辺がそれぞれ平行である四角形を「平行四辺形」という
この定義にしたがえば、長方形だって菱形だって、さらには正方形だって、平行四辺形の傘下に入ることになります。「正方形は、平行四辺形(の仲間)だ」といってもいいわけです。それは、「インドクジャクは、キジ科」だと言っているのと同じ関係にあります。
◆さらに、台形の定義は以下の通りです。
■ 台形 ■
1組の向かい合う辺が平行である四角形を「台形」という
1組の対辺(向かい合う辺)が平行な四角形を台形と呼ぼうというのです。それなら、平行四辺形は思いっきり台形の仲間なのです。何しろ、2組の対辺が平行なのですから……。
インドクジャクは、キジ目です。同様に、正方形は台形(の仲間)です。
◆最後に、四角形の定義を紹介します。
■ 四角形 ■
4本の線分で囲まれた図形を「四角形」という
◆ここまでの包含関係を図に表すと以下のようになります。
四角形の外側の概念としては「多角形(線分だけで囲まれている図形)」があります。┌――――――――四角形――――――――┐
| ┌――――――台 形――――――┐ |
| | ┌―――平行四辺形―――┐ | |
| | | /\ /\ | | |
| | | / × \ | | |
| | | / 長 /正\ 菱 \ | | |
| | | \ \ / / | | |
| | | \ × / | | |
| | | \/ \/ | | |
| | └―――――――――――┘ | |
| └―――――――――――――――┘ |
└―――――――――――――――――――┘◆くどくて嫌われそうですが、まとめておきましょう。
正方形は四角形(の仲間)です。
正方形は台形(の仲間)です。
正方形は平行四辺形(の仲間)です。
正方形は長方形(の仲間)です。
正方形は菱形(の仲間)です。
◆では、クイズをもう1問。
「日本最大級の縄文集落跡である三内丸山遺跡がある……」
ここで押します。ここまで聞けば三内丸山遺跡がある場所を尋ねているのだと推測できます。三内丸山遺跡があるのは、青森県の青森市です。でも、問題が県名、都市名のどちらを要求しているのかわかりません。
そこで、「青森県の青森市!」と答えます。
でも、これは、「長方形の仲間の正方形」と答えるのと似てます。なんだかちょっとずるい答え方ですね。
また、「青森」という答えもあります。これなら県名とも都市名とも受け取れますから、うまい(ずるい)答え方です。多分、児玉さんならOKにするでしょう。
◆正方形を見せて、「この図形の名前は?」と聞かれたら、何と答えるべきか?
学校での数学でなら、その図形に最もピッタリくる名前で答えないと不正解とされるでしょう。つまり、長方形なら×で、正方形なら○です。
もちろん、正方形は長方形の仲間です。でも、「最もフィットする名前ではない」という意味で×なのです。
同様に、サイコロの形をした立体なら、
六面体、四角柱、直方体、正四角柱、正六面体、立方体
などのような名前が思いつきますが、学校数学なら正六面体、立方体のどちらかでないと正解とされません。
◆「あれは、鳥です。私は間違ってますか?」
と言われて、たいていの人は、
「鳥にはまちがいないけど……。あなた、あの鳥がクジャクだって知らないの?」
と思うでしょう。
そうです。知らないということが(知識が足りない)ということが恥ずかしいことである場面があるのです。
◆「(正方形を指さして)これは、長方形(の仲間)です」
この発言を間違っていると思う人は、理解が足りないのです。
何かを知らないという認識は自分でも気がつきますが、間違って理解しているということは、自分ではなかなか認識できないものです。
知識を増やしたり、正しく理解したり……、「知らなかった!」「そうなのか!」がいっぱいあると楽しくなります。だから、「雑学」はまだまだやめられません。