★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第百八十一段 ●  6月6日は「藝事」の日?

 6月6日は「邦楽の日」だ。その日、由希子は京都に出かけた。
「6月6日だから、そういう催しがあるのよね、きっと」
 私たちの共通の友人である女性が、祇園甲部歌舞練場で三味線を弾くとのことで、それを見に行ったのだ。
 6月6日が関係ある? そうかもしれないし、そうでないかもしれない。

 6月6日は、「楽器の日」、「いけばなの日」、「コックさんの日」でもある。その謂われは、「コックさんの日」を除いて、「芸事は6歳の6月6日に始めるとよい」と言われているからというものによる。
 なぜ、「6月6日」なのか? これは、ず〜っと気になっていることだ。その謎は、また、調べるとして、今は、「芸」の話。

 阿辻哲次の『漢字と日本人の暮らし』という本の中で、「芸」という漢字について書かれてあったのを思いだして、また、読んでみた。

「藝」という漢字がある。画数の多い漢字だ。「文藝春秋」は、この字を使っている。この字は、もともと、樹木や草を植えることを意味する。

 樹木や草を植えるということ、自然の素材に手を加えて、形よく仕あげること。これを人間に置き換えて考えてみる。人間を大きく成長させるもの……、そこで、「技術」や「学問」という意味が生まれる。

「芸」と「藝」は、本来別の字だ。「全く関係のない漢字だった」と阿辻さんは書いている。日本でも、早い時期には区別して使われていた。

 高校で日本史を勉強すると、日本最古の図書館として「芸亭」が登場する。これは、「ゲイテイ」と読まずに、「ウンテイ」と読む。私も初めて見たときは、もちろん、「ゲイテイ」と読みそうになった。ふりがながあったから、助かった。そういえば、「雲」も「ウン」と読む。「云」の部分を「ウン」と読むのだなとそのとき知った。

■ 芸亭 ■
 奈良時代末に有名な文人の大納言石上宅嗣(いそのかみのやかつぐ)が設けた書庫。日本最初の公開図書館とされる。芸亭院ともいう。

「芸」とは、香草の名前だ。この草の香りは虫除けに効果がある。だから、書物を保存するときに、はさんで使ったらしい。転じて、「蔵書」「書斎」という意味もある。
「芸亭」とは、そういう意味だったのだ。高校の日本史の先生は、知ってるかな? 奈良市立一条高等学校の敷地内が芸亭の所在地と推定されていて、そうことを教えてくれる看板を私は何度も見ている。

 ちゃんと区別していたのに、「藝」が「芸」になっちゃったのは、戦後のこと。「藝」の真ん中を省いちゃうと「芸」になる。もともとの「芸」にとっては、迷惑な話だ。

   芸――――→芸
   藝――――→芸

 だから、ずっと昔からの「芸」と形を変えた「芸」と、形は全く同じである2つの漢字があるということなのだ。今では。形を変えた「芸」を小学校で習っている。もっとも、昔からの「芸」を使う場面は、あまりないだろうから、混乱は少ないのかもしれない。


【メモ】
◆「うんてい」という遊具がある。はしご状のものを水平に張って、子ども達が懸垂して渡っていく。
 漢字で書くと、「雲梯」。「くものかけはし」だ! なんだか、素敵な名前!

◆「芸は身を助ける」ということわざがある。今回の話に関連して、調べてみたら、本来の意味はちょっと違うんだということがわかった。
「一芸に秀でていれば、それが生計の助けとなる」
 そういう意味で使われることが多いと思うのだが、本来は、「道楽として身につけた芸が、おちぶれたとき生計を立てるのに役立つ」という意味(『広辞苑』)。
「芸は身を助けるから、やめないで習い事を続けなさい」
とアドバイスするのは、いいことのか、悪いことなのかわからない。

◆だから、「芸は身を助ける」というのは、「よかった」「助かった」という幸運な面と、「トホホ」「哀しいなぁ」という不幸な面がある。
「トホホ」な境遇を言ったことわざに、「芸が身を助けるほどの不仕合せ」がある、

◆阿辻哲次の『漢字と日本人の暮らし』の本に教えてもらったことをもう一つ紹介しよう。
「隹」を「ふるとり」というのは、ご存じだろうか? 小学校で部首名を覚える機会があるが、「ふるとり」を知っている小学生はすくないと思われる。
 なぜ、「ふるとり」というのか?
「舊」という漢字があって、これはもともと、鳥の名前を表していた。『広辞苑』では、「ふくろう」と書いてあった。「キュウ」という音から、「久」や「朽」に通じ、「ふるい」という意味に使われるようになった(下部の「臼」が「キュウ」という音を示しているのだな)。
「隹」は、「ふるい」を表す「舊」という漢字の中にあり、「とり」を意味する要素だから「ふるとり」と呼ばれている。

◆「雁」に使われている垂れだから、「がんだれ」。「麻」に使われている垂れだから、「まだれ」。「病」に使われている垂れだから、「やまいだれ」。それと似たような経緯だな。
 この話をすると、スッキリする人が多い。

◆「魔」や「摩」「磨」に使われている垂れだから、「まだれ」ではない。よく見たら、「魔」「摩」「磨」には、「麻」が含まれている。

◆「ふるい」を表す「舊」は、今では、「旧」と書かれることが一般的である。

◆6月6日は、スウェーデンの建国記念日(1523年)。
 6月6日は、飲み水の日。
 6月6日は、ローカロリーな食生活の日。
 6月6日は、梅の日。
 6月6日は、ロールケーキの日。
 6月6日は、ワイパーの日。
 6月6日は、補聴器の日。
 6月6日は、ヨーヨーの日(4月4日も)。
 6月6日は、ひつじの日。
 6月6日は、かえるの日。

◆映画『オーメン』と6月6日について書こうかとすこしは考えたが、そういうホラー映画は本当に苦手なので、やめた。

◆さて、なぜ、6歳の6月6日に芸事を始めるとよいとされているのか?
 私たちは指を使って数える場合、親指、人差し指、中指……の順番で指を折りながら数えます(もちろん、そうじゃない人もいるだろうけど!)。こうすると、小指を折り曲げたところで、5になります。
 そして、6です。今度は、小指を立てるはずです。そこで、「子が立つのは6」ということらしい。

◆一方、「コックさんの日」は、絵描き歌『かわいいコックさん』の歌詞の中に「6月6日」が出てくるからだ。例の

 6月6日に雨ザアザア降ってきて……

という歌です。子どもの頃、よく書いたなぁ。
 2010年の6月6日、奈良は、雨は降らなかった。


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