● 第四十二段 ● 4色問題
地図を4色で塗り分けるという「4色問題」ではない。えっ、「4色問題」を知らない? じゃあ、それはあとで【メモ】の中で紹介するとして、話を先に進めよう。
しろ
くろ
ちゃいろ
ももいろ
むらさき
あお
みずいろ
みどり
きみどり
きいろ
だいだいいろ
あか身近にあった1ダース入りの色鉛筆には、これだけ入っていた。これらの色を表す言葉の語尾に「〜い」をつけてみる。うまくいくのと、いかないのとがある。
うまくいく…………白い、黒い、茶色い、青い、黄色い、赤い
うまくいかない……桃色い、紫い、水色い、緑い、黄緑い、橙色いどうして、うまくいかない色があるんだろう。「桃色い」「紫い」は、どうもしっくりこない。
うまくいくグループの中でも、さらに細かく分類することができる。「茶い」「黄い」とは言わないからだ。だから、純粋に「〜い」が成功しているのは、次の4つだけということになる。白い、黒い、青い、赤い
この4色に共通しているのは何だろう。疑問のまま、何ヶ月も何年も過ぎた。
飛鳥に行った。1972年、ここで高松塚古墳が発見された。石室の内面の星宿、四神、男女像の彩色壁画が、当時の注目を集めた。現在、中を見ることはできないが、近くに壁画館という施設があって、そちらで様子を知ることができる。
玄武がいる。白虎も、青龍もいる。このときだ、やっと共通点を見つけたと思ったのは。4つの方角には、それぞれ守り神がいるのだ。東……青龍 西……白虎 南……朱雀 北……玄武
古代中国には、五行思想と呼ばれるものがあり、この世の森羅万象は、すべて5つの要素でできていると考えられていた。木、火、土、金、水。さらにそれぞれの要素は色に対応している。木は青、火は赤、土は黄、金は白、水は黒。同じ考えで、方角や、季節にも5つの色が対応している。
木……青 火……赤 土……黄 金……白 水……黒
東……青 南……赤 ?……黄 西……白 北……黒
春……青 夏……赤 ?……黄 秋……白 冬……黒「青春」とか、「玄冬」とか、北原白秋の「白秋」もそうだったんだ。「赤夏」って聞かないなと調べたら、これは「朱夏」だった。確か、宮尾登美子の小説に『朱夏』があったぞ。
もう、これにちがいない。違っていても、この共通点は面白い。五行思想にもとづく四方に配された色だけが、「〜い」をつけて形容詞を作ることができるのだ。
この4色だけが、日本人にとって特別な色だったんだ。きっと。
【メモ】
◆数学でいう「4色問題」は、
「球面または平面上の地図にかかれた領域を色分けするには、色は4色あれば十分であることを証明せよ」
という問題。
実際に地図の色塗りをやってみると,領域の数が多くなっても、また、どんなに領域の配置を複雑にしてもみても、4色で十分で、5色以上を必要とする地図が作れない。こんなところから、生まれてきた問題だ。
地図の領域を色分けするなんてことは、小学校の子どもでもやっていることで、この問題の意味はきっと理解できるだろうが、証明するとなると非常にむずかしく、もう解くことはできないのではないかとまで言われていた。
しかし、1976年に、アッベルとハーケンが大型コンピュータを使ってこの難問の証明に成功している。彼らは、この地図の色分け問題が結局のところ1936種類の標準的な地図の色分け問題に帰着することを示し、このすべてをコンピュータを使って4色で塗り分けできることを調べたのである。いわば、「虱潰し」的に証明したわけで、
「この証明は、スマートではない!」
との批判もあったが、ともかく4色問題は解決された。
◆ダース(dozen)は、同じ種類の品物12個を1組として数えるときの単位。この単位を用いるときは,たとえば「色鉛筆1ダース」という具合にように、品物を特定する必要がある。
ダースの語源は、古いフランス語の duo+decim。つまり、2+10。
12ダースを1組として数える単位もある。12ダースは、1グロス(gross)という。
12×12=144
だから、1グロスは144個を表している。グロスは「総体の」という意味の英語に由来している。
さらに、12グロスを1組として数える単位も……ある。グレートグロス(great gross)だ。
144×12=1728
なるほど、1グレートグロスは、1728個にもなる。
◆黄に対応する方角がない。調べたら、中央が黄に対応していた。では、黄に対応する季節は何か?
実は「土用」という「季節」があり、これが黄に対応している。土用とは立春、立夏、立秋、立冬の前の18日間のことで、春夏秋冬のどの季節にも属さないとされる。4つの土用を合わせると72日間。ほかの季節と同じくらいの長さになる。
◆そうか。黄は、第5の色なんだ。主要4色だけに「〜い」が許されて、黄には「〜色い」が許されるんだ。
じゃあ、「茶色い」はどうなるんだ? それに、最近、「ピンクい」を聞いたことがあるぞ!
◆「葡萄茶」と書いて、「えびちゃ」と読む。
◆大相撲では、土俵のつり屋根の四隅に、青房・赤房・白房・黒房が垂れ下がっている。これは、柱の代わり。柱があっては、客が観戦しにくいので、1952年9月に房に変えられた。
青房―北東 赤房―南東
白房―南西 黒房―北西
◆今では青・赤・黄・白・黒の5色を意識して使うことはなくなったが、それでも伝統行事の中には、この5色が色濃く残っている。
たとえば、鯉のぼりと一緒に飾られることがある吹き流し。この吹き流しに使われている5色が、青・赤・黄・白・黒だ。さらに、唱歌『たなばた』の中で
「五色の短冊、私が書いた」
と歌われているが、この5色も同じことだ。
ほかにも注意して1年間の生活を過ごせば、この5色が見つかるかもしれない。
◆さて、本文中にも登場した高松塚古墳について、ほんのすこし勉強しよう。
■ 高松塚古墳 ■
1972年、奈良県高市郡明日香村で発見された装飾古墳。直径約20m、高さ約5m。7世紀〜8世紀初頭のものと推定されている。石室の内部の壁にはしっくいが塗られ、その上に壁画が描かれていた。東壁に青龍、西壁に白虎、北壁に玄武のほか、日輪、月輪、男女4人ずつの群像、天井の星宿がある。朱雀が描かれ
ていたはずの南壁は、後世の盗掘によってはがされている。
◆青龍は龍だろう。白虎はトラだろう、朱雀はスズメでないにしても鳥だろう――と想像がつくのだが、玄武だけはこの名前から想像するのがむずかしい。
玄武は、カメとヘビの合体した姿で描かれている。想像上の動物だから実際に見ることはできないが、玄武洞なら見学できる。兵庫県の城崎温泉から、南へバスで10分のところにある柱状節理が美しい洞窟だ。運がよければ、暗闇の中で玄武に会えるかもしれない。
もし会えなかったとしても、近くには青龍洞・白虎洞・朱雀洞がそろっているから、ついで見学してみるといい。
◆地球上で最も多量にある火山岩が玄武岩。この「玄武岩」という名称は、ここ玄武洞の地名からとられたもの。
では、なぜこの洞窟が玄武洞と呼ばれているのかだが、亀(玄武)の甲羅の模様と柱状節理の断面とが、ともによく似た六角格子模様を示すことによるらしい。
◆朱雀という年号がある。天武天皇(631?〜686)の時代の私年号だ。私年号とは、朝廷の定めた公式の年号以外に文書に現れる年号のこと。弘文元年(672年)ともいうが、諸説あり。
◆朱雀天皇(923〜952)もいる。第61代の天皇で、彼の治世中に平将門の乱(939年)、藤原純友の乱(939年)が起こっている。
◆朱雀門といえば、平城京、平安京の大内裏の南面中央の門。朱雀大路の起点だ。
平城京の朱雀門は最近復元され、1998年の四月から一般に公開されている。朱雀門はただ復元されたのではなく、当時の材料や当時の加工・組み立ての技術まで含めて「復元」されている。たとえば、使用される主要な木材には日本産のヒノキを使う、仕上げにはヤリカンナで削る――などのこだわりを見せて
いる。
間口 5間(25.075m)
側面 2間(10.030m)
高さ 20.125m(基壇を含む)
使われた瓦 約41800枚
◆近鉄奈良線に乗って大阪から奈良に向かうと、線路の北側に広大な芝地を見つけることができる。初めて奈良に来た多くの人は、
「どうしてこんなところに、ぽか〜んと、何もない土地があるんだ?」
と不思議に思うだろう。実は、ここが昔平城京があったところなのだ。時間があれば、平城宮跡の北寄りにある遺構展示館、西の端にある平城宮跡資料館を訪れるとよい。
◆「白馬節会」という宮廷行事がある。これで、「あおうまのせちえ」と読む。正月7日に、天皇が紫宸殿で白馬を見て、宴を開くという行事だ。
本来は、春の色である青毛の馬を引いていたのだが、白い馬を神聖視していたことから白馬に変更された。ただ、行事の名前だけは「あおうま」のまま残った。やはり、新春の重要な行事だけに、「春」と「青」の関係にこだわったのだろうか?
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