★雑木話★
ぞうきばなし

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 ・ 第四十八段の一 ・  Let's make 蒲鉾!
   (この段は、第四十八段からの続きです)

 第四十八段では、現在「竹輪」と呼ばれているものが、蒲鉾だったと述べた。
小田原市の「かまぼこ博物館」から資料を送っていただいたので、今回は、それをもとに、蒲鉾についての知識を増やしてみよう。
 蒲鉾というものは食べたことはあるが、作ったことがない――というのがほとんどの方だと思う。そこで、「蒲鉾の作り方」だ。

(1) 骨と皮を取る。
 魚を水洗いにして、骨と皮をとり、身だけにする。血合いの部分が入ると蒲鉾が白くならないので、注意する。実際には、魚の肉質の季節ごとの変化・魚の大小に合わせて、身の採り方も微妙に変えられる。

(2) 水に晒(さら)す
 魚の身は水に晒すだけで、血や油がとれて、白くなる。血液には、弾力の元になるたんぱく質の絡み合いを阻止する酵素類が含まれているので、この工程は非常に重要である。

(3) 石臼で摺(す)る
 きれいになった身を、石臼ですりつぶす。ここへ塩・砂糖・卵白・みりんなどの調味料を加えてすり身ができあがる。塩や砂糖を入れて練ることで、たんぱく質の繊維が絡み合って、弾力が生まれ、魚の身はのり状に変化する。
 昔は当然、人力で行われていたが、機械化された現在でも、この工程では石臼と杵が使われている。

(4) 形を作る
 すり身を板にのせて、形を作る。気泡が入らないように注意が必要だ。練り上げた身は、長く放置すると「座り」といい、身がこってしまいよい弾力を生まなくなるので、素早い作業が必要となる。

(5) 蒸す
 「蒸す」という製法は、小田原蒲鉾の伝統的な方法。蒸籠(せいろ)をなどを使って蒲鉾を蒸す。蒸す際の1℃の違い、1分の長短で弾力に大きな差が生まれてしまう。
 京阪神地域の蒲鉾は「焼き板」と呼ばるものが多く、蒸し上げた蒲鉾をさらに焼いたものだ。

(6) 包装する
 蒸し上がった蒲鉾を、フィルムや包装紙できれいに包む。

「うちは家で蒲鉾を作っているんだ」
という高校時代の友人(蒲鉾屋の息子)がいたが、彼の家ではこういうことをやっていたんだ。もうすこし話を聞いておくんだったと、後悔している。
 蒲鉾の消費量がピークに突入するのは、12月中旬から大晦日。おせち料理の材料として、正月には欠かせない食品だ。この作り方を読んでも、素人が初めからうまく作ることはむずかしいだろうが、できないわけではない。挑戦してみてもいいが、多分買った方が速くて安くてうまい。


【メモ】

◆蒲鉾1本(250〜260g)を作るのに必要な魚(250g)は、5〜6匹。

◆昆布で巻いた富山の昆布巻き、鉄板ですり身を焼いた和歌山のなんば焼き、仙台の笹蒲鉾というのもある。

◆「ウナギの蒲焼き」の「蒲」は、「蒲鉾」の「蒲」と同じ漢字が使われている。当然だ。ルーツが同じなのだから。
 蒲焼きは、ウナギの腹や背をさいて付け焼きにして作る。しかし、この方法が登場したのは江戸初期のことで、それまではウナギを丸のまま竹串に刺して焼くのが普通だった。この形が、蒲の穂を連想させたのだろう。だから「蒲焼き」だ。

◆そもそも、万葉の時代、ウナギは中流以上の膳にはのぼらない下魚とされていた。「ウナギがうまい」という評価を得たのはかなり後のことで、「夏痩せに薬効がある変な魚」くらいにしか認識されていなかったのだ。
 大伴家持の歌に、次のようなものがある。
   石麻呂にわれ物申す夏痩に 良しといふ物ぞ鰻とり召せ

◆蒲鉾という調理法の利点として、カムフラージュできるということがある。
 初期の蒲鉾は、淡水魚のナマズが使用されていたのだ。ナマズといえば、純白な身と淡泊な味わいを持ちうまい魚だとは思うが、その容姿からグロテスクで嫌われることが多い。ナマズの外観を残したまま食前に出すと、
「これはちょっと……」
 ということになる。
 だから身だけを利用し、もとの姿がまったくわからない「蒲鉾」という調理法は、ナマズにとっては最適なものだったということになる。

◆ハモが、材料に使われていた時代もあった。
 今でこそ高級魚の感があるハモだが、その細長い体は細長く(2mにも達する!)、面相は凶暴で漁師からも恐れられていた魚だったのだ。それゆえ、すり身にされて蒲鉾へ――ということになったのだ。

◆現在、かまぼこの多くは、スケトウダラの冷凍すり身を主材料に製造されている。
■ スケトウダラ ■
タラ科の海水魚、体長60pくらい。約200mの深さの海の中層にすむ。寒帯性の魚で、北日本からアラスカにかけて分布している。この卵巣を塩づけしたものが「タラコ」で、赤く着色したものと無色のものとがある。スケソウダラとも呼ばれる。

◆蒲鉾には、なぜ板がついているのか?
 蒲鉾の形を整えやすい、持ち運びに便利、板が余分な水分を取り腐りにくくなる――などさまざまな利点があるのだ。表札にするためではない(そんな奴はいないか?)。

◆蒲鉾の板は、主にモミの木からできている。蒲鉾が板に付くようになったのは、安土・桃山時代といわれている。
 戦国の時代、戦場での持ち運びが便利だという利点もあったのだろうか?

◆板付きの蒲鉾が「蒲鉾」ということになると、もともとの「蒲鉾」であった竹輪は、別の名称を付ける必要が生まれる。
 丸竹の串を抜いた小口の切り口が、竹の断面に似ているので「竹輪」ということになった。

◆宮城県では、笹かまぼこが有名だ。
 この夏(2009年)、仙台で笹かまぼこづくりを体験した(500円)。なんでも体験してみるものですね。おいしかった。
 
http://www.kanezaki.co.jp/belle_factory/

◆宝石をはめていない中高の指輪も、その形状から「蒲鉾」と呼ばれる。だから、蒲鉾は宝石店でも売られている。食えないけど……。

【参考文献】
  ・かまぼこ博物館(神奈川県小田原市風祭245)のパンフレット
  ・『新鮮魚介でかまぼこを作る』(雄鶏社)


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