★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第五十三段 ●  お肉の安い店、知ってます

「そこの牛肉を、500gください。」
 と言う。店員は適当に肉をつかんで、量りに乗せ、500gを量り取る。この肉を月に運んで同じ量りで量ると、約6分の1の値が表示される。天秤だと、地球でも月でも同じ値になる。
 なぜ肉屋の量りだと、地球と月とで話が違ってくるのか?
 これは、天秤が「質量」を(間接的に)量っているのに対して、肉屋の量りは「力」(この場合は「重力」)を量っているからだ。
 力というのは、物体の質量と加速度の積で定義される。力をF、質量をm、加速度をaとすると、

   F=ma

 という関係になる。重力というのは、地球が物体を引きつける力のことで、そのときの加速度が重力加速度だ。肉屋の言う「500g」は、正確には「500g重」と表現されるべきで、これは地球が質量500gの牛肉を引きつける「力」を表している。実は、肉屋の量りは、「500g重」の力を感じたとき、「500g」と表示されるように、あらかじめ設定されてあったにすぎない。

 さて、地球の
重力加速度は、通常gという文字で表されるから、質量mの物体にはたらく重力Fは次の式で求めることができる。

   F=mg

 月での「重さ」が約6分の1になるのは、月の重力加速度が、地球のそれの約6分の1だからだ。
 では、gの値はどれくらいなのか。1901年の国際度量衡委員会というところで、標準の重力加速度の値が定義されている。

   g=9.80665 m/s^2   ※^2 は、2乗を表す

「標準の重力加速度」ということは、標準ではない場合があるということだ。日本国内で何ヶ所か紹介してみよう。なお、表中の gal(
ガル)とは、重力加速度の単位で、1gal=1cm/s^2 のことである。(国際重力基準網1971より)

都市名 緯度
度  分
重力実測値
    gal
稚内 45 25.0 980.62273
札幌 43 4.3 980.47757
仙台 38 14.9 980.06583
東京 35 38.6 979.76319
名古屋 35 9.1 979.73254
京都 35 1.6 979.70775
広島 34 22.1 979.65842
福岡 33 35.7 979.62859
鹿児島 31 34.4 979.47215
那覇 26 13.5 979.09942


 場所によって、重力加速度が異なっているのがわかる。標準の重力加速度は、おおよそ仙台あたりか。またこの表をよく見ると、緯度が下がるほど、gの値が小さくなっていくのもわかる。稚内と那覇とでは

  980.62273−979.09942=1.52331 (gal)

 これだけ違う。稚内の方が、少しだけだが、物が速く自由落下することになる。日本国内ではこの程度だが、目を地球全体に向けるともっと差が大きくなる。


都市名(所在地) 緯度
度  分
重力実測値
    gal
昭和基地(南極大陸) 69 0.3S 982.52560
オスロ(ノルウェー) 59 55.1N 981.91261
パリ(フランス) 48 49.8N 980.92597
オタワ(カナダ) 45 23.7N 980.60614
ローマ(イタリア) 41 54.2N 980.34923
ワシントン(アメリカ) 38 53.6N 980.10429
ニューデリー(インド) 28 36.3N 979.12155
ハルツーム(スーダン) 15 36.7N 978.28864
パナマ(パナマ) 8 58.3N 978.22670
キト(エクアドル)   0 13.0S 977.26319


 やはり、緯度が下がるほど、gの値が小さくなっている。昭和基地とキトとを比べてみようか。

  982.52560−977.26319=5.26241 (gal)

 昭和基地の肉屋もキトの肉屋も、標準の重力加速度に設定されている量りを使用しているとすれば、すこしだけだが損得が生じる。ここから話が少々ややこしくなる。肉屋の量りは、500g重の力を感じたときに、「500g」と表示するわけである。つまり、

   500×980.665=490332.5 (dyn)  ※ dynは「ダイン」。力の単位。

 これだけの力を感じたときに、「500g」と表示するように設定されているのだ。同じ力を、昭和基地、キトで感じるためには、

   昭和基地  490332.5÷982.52560=499.05315 (g)
   キト    490332.5÷977.26319=501.74047 (g)
   東京    490332.5÷979.76319=500.46021 (g) (参考までに)

 これだけの質量の牛肉でいいわけだ。キトで買った方が、2.7g程度おトクだ。
 やっぱり、肉を買うなら、赤道付近だね。パパやママに教えてあげよう。


【メモ】

◆本文に紹介したような損得が生じないようにするために、国ごとに標準の重力加速度がの値が定義されているかもしれない。

◆■ 
ダイン(dyne) ■
力の大きさを表す単位。質量1gの物体に1cm/s^2 の加速度を生じさせる力。記号は、dyn。

◆『
牛肉と馬鈴薯』は、国木田独歩の作品。

◆牛肉と豚肉を混ぜてひいたものが、「合い挽き」。男女がこっそりと会うのが、「逢引き」。ツルゲーネフの短編の『あひゞき』は、後者。これは、二葉亭四迷が訳している。

◆イタリア料理で、生の牛肉をオリーブオイルで味付けしたものがある。ベニスで活躍した画家にちなんで、「カルパッチョ」という。

◆『ちびまる子ちゃん』一家がすきやきを食べるときの、牛肉と豚肉の割合は、2:3。

◆牛肉の「バラ」は、腹の部分の肉。「ヒレ」は、腰から背中にかけての上級の肉。「ミノ」とは、牛の第1胃袋の肉。ああ、牛肉の部位の図をつけたい。

◆日本は、牛肉を多く輸入している。輸入先の第1位は、オーストラリア。

◆日本で市販されている牛肉の表示は、業界の自主的な公正競争規約により、国産牛、輸入牛、和牛の3つに分類されている。

◆弁護士のバッジには2つのものがデザインされている。
天秤とヒマワリだ。天秤の象徴するところは、何となく分かる気がするが、ヒマワリは何を象徴しているのか。

◆「犬も歩けば棒にあたる」ということわざがある。元々の意味は、「でしゃばると、ひどい目に遭う」という意味だったのだが、最近は「出歩くと、思いがけない幸運に出会う(じっとしていては、幸運には出会えない)」という意味で使っている人が多い。意味が逆転してしまった。
 それはさておき、この棒は、門柱や電柱などではなく、魚屋の天秤棒だそうだ。

◆エクアドルの首都
キトは、その美しさから、「永遠の春の都」、「アンデスのフィレンツェ」などと呼ばれている。キトは、赤道の南に位置する。

◆キトには、日本人の名前のついた通りがある。誰だか想像がつくだろうか。医師、野口英世だ。彼が、黄熱病の病原体を発見したのが、エクアドルだった。

◆エクアドルの通貨単位は、「エクアドル・スクーレ」。1ドルは、およそ2970スクーレだ。

◆ダーウィンの研究で知られるガラパゴス諸島は、エクアドルに属する。


【参考文献】 ・理科年表  丸善


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