● 第百十二段 ● 折れ、折れ、折れ、折れ
今、A4の大きさの紙を長い方の辺が横になるように持っているとする。この紙を、横の辺が半分の長さになるように折る。簡単に言えば、横に折るということだ。
第九段でも述べたが、折ってできた長方形は、元の長方形と相似になっている。この新しく生まれた長方形の大きさがA5だ。
しかし、今回は大きさの話ではないので、話を元に戻そう。
今、A4の紙を1回折った。広げてみればわかるが、この紙には折り目が縦に1本入っているはずだ(そんなことくらい、広げるまでもないか……)。
では、同じ方向にもう一度半分に折ってみよう。そして、再び広げてみる。3本の折り目が入っているはずだ。
このようにして、どんどん同じ方向に折っていく。折るたびに、紙にできた折り目を数えていく――という作業を続けていく。
5回目を折るのは、かなり苦しい。で、ここまでの折り目の数を整理してみる。1回目…… 1本
2回目…… 3本
3回目…… 7本
4回目……15本
5回目……31本
6回目……?本6回目は折ることができなかったろうと思う。だから、ここで「数学」に登場いただく。1回目から5回目のデータを眺めて、規則性を発見するのだ。紙を折るくらいのことに、こんなに美しい規則が隠されていたのかと、感激するに違いない。
1, 3, 7, 15, 31 ,‥‥
さて、どんな規則なんだろう? 奇数ばかり並んでいるということはわかる。ということは、紙を折るたびに偶数本ずつ折り目が増えるということだ。増えていく動きを見てみよう。
1 3 7 15 31 ?
\/\/\/\/\/
2 4 8 16
2,4,8,16,‥‥、これは「2の累乗」だ。ということは、次は2の5乗、つまり、32本増えることになる。だから、6回折ったときの折り目は63本だ。
では、7回折ると何本になるだろうか? 折れるかどうかは、別の問題。折れたとすれば、今度は64本増えるはずだから、127本の折り目が走ることになる。8回目以降は、この調子で計算してほしい。
「じゃあ、20回折ったら何本?」
と、突然に任意の回数を指定されると、ちょっと困る。そこで、数学では、
「一般にn回折ったときの折り目の本数をnを使った式で表す」
ということがなされる。こういうのを「一般式」という。
この問題の場合、折り目の本数の一般式は、n
2 −1(本) (ただし、n>0)である。この式のnに20を代入して計算すると、
2^20−1=1048576−1=524297(本)
となる。まあ、20回折ることなんて絶対無理なのだが、不可能でも考えることができるのが、数学のいいところだ。
【メモ】
◆数学が得意な杉野君に、この話をしてみた。すると、
「折り目の本数が(2^n-1)本になるということだけど、このことはそれほどむずかしいことではないよ」
「そう?」
「紙を『折る』と考えるからむずかしいんだ。『切る』と考えるんだよ。昔からいうじゃない。紙を切りながら、『1枚が2枚、2枚が4枚、4枚が8枚‥‥』って」
「ふんふん」
「折り目の数は、切ってできた紙の枚数より1すくないということさ」
「なるほど」
◆手元の上質紙は、計ってみると500枚で厚さが42mmあった。この紙1枚を20回切って重ねると(1048576枚の厚さは)、約88m8cmにもなる。
◆洋菓子のワッフルは、2つ折りになっている。中には、ジャムやクリームがはさまれている。
◆たいていの板チョコには筋が入っていて、折りやすいようになっている。
今、ここに、3×4の筋が入った板チョコがあるとしよう。この板チョコを一つ一つバラバラにしたい。ただし、条件がいくつかある。・直線で折ること
・重ねて折らないこと。さて、この条件を守って、板チョコをバラバラにするには、何回で折ればよいか? 最低の回数を求めてほしい。
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■■■■◆新井白石がまとめた自叙伝のタイトルは、『折りたく柴の記』。3巻。江戸中期の重要な政治資料だ。
◆耳の先端が前方に折れ曲がっているのが特徴のイギリス原産のネコは、スコティッシュ・フォールド。
◆中村あゆみは、『翼の折れたエンジェル』を歌っていた。
◆川端康成の『伊豆の踊り子』の冒頭。
「道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思うころ……」。
◆「からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ」
の各部分の頭文字を順に並べると、「かきつばた」となる。このように、物の名前などを各句の始めに一字ずつ読み込んだものを「折り句」という。
『笑点』の大喜利のコーナーで、たまにやっている。
◆骨が折れることは「骨折」、関節が抜けるのは「脱臼」。
◆大相撲の弓取り力士がもらう手当は、「骨折り賃」と呼ばれている。
◆骨折り損の草臥れ(くたびれ)儲け。Great pains but all in vain.
◆角を折ると書いて、「折角(せっかく)」。
角を折るほど努力したのに、十分な効果があがらなかったという場合、「折角……のに」という用法になる。
◆「兎に角」で、「とにかく」。
◆考え、性質などが正反対で、どうしても折り合えない間柄を「氷炭(ひょうたん)相容れず」という。
◆そのような状況では、話が前に進まないから、両者のよいところを抜き出し調和をはかるという手法がとられる。これを、「折衷」という。
◆AとBを折衷すると、ABが生まれずに、Cが誕生することがある。
◆数を数えるときは、「指を折る」。
欲しくてたまらないものに手出しができないときは、「指をくわえる」。
だから、そのようなものがたくさんあって、それらを数えるときには、折った指をくわえることになる。
◆厳しく叱る叱ること、肉体的な苦痛を与えることを「折檻(せっかん)」という。これは、中国、後漢の時代、朱雲が皇帝に対して欄干が折れるほど諌めたことに由来している。
◆「ちょうどそのとき」というタイミングは、「折(おり)も折(おり)」「折りしも」「折りから」。
グッド・タイミングは、「折りよく」。
「何かきっかけがあると」ということなら、「折(おり)に触れて」。
◆その続きが聞きたいな、というところで話を中断したり、話をさえぎったりするのは、「話の腰を折る」。これを得意技とする人がいる。
◆「筆を折る」とは、文筆活動をやめること。「ペンを折る」ともいう。
ということで、今回はこのあたりで筆を折りましょう。おっと、この場合は、「筆を擱(お)く」だ。