・ 第九段の一 ・ 模造の模造の模造
(この段は、第九段からの続きです)
第九段では紙漉きを紹介したが、考えてみると日本人は紙にこだわり、紙を大切にし、そして紙を上手に使いこなしていると感じる。
たとえば、懐紙という和紙がある。文字通りふところに用意しておいて、菓子などを出されたときの受け皿の代わりに用いるのだが、これなんかとてもおしゃれだと思う。
また、和服や髪結いの道具などをしまうときには、畳紙を用いる。これには害虫や湿気よけのために、和紙に渋が塗ってある。知恵だなと思う。
【メモ】の中で、模造紙は和紙を模造したものだと述べた。それは、間違いではない。しかし、もっと入り組んだいきさつがあった。ここにも、日本人の紙に対するこだわりが感じられる。
模造紙が模造したかったもの、憧れていたものは、実は「鳥の子紙」と呼ばれる紙だったのだ。
■ 鳥の子紙 ■
雁皮を主原料にした良質の和紙。卵色をしているところから、「鳥の子」と呼ばれる。滑らかで、きめ細かく、光沢を持ち、耐久性に富む。「鷲子紙」と書いて「とりのこがみ」と読まれることもある。
明治半ば、大蔵省は鳥の子紙に似せた「局紙」を製造した。これは、三椏を原料とした上質の和紙だ。耐久性があるので、証券や賞状などに用いられた。大蔵省の抄紙局というところが作ったから、「局紙」と呼ばれている。
政府は、1878年のパリ万博に、局紙を出展する。局紙の評判は非常に良かったのだが、価格が高かったので、ヨーロッパでは、亜硫酸パルプを使って「似たような紙」を作った。だから、「模造紙」。
オーストリアの製紙工場で作られた模造紙は、「ジャパン・シミリ simili Japanpapier」という名前で日本にも輸出される。そして、1913年、日本の製紙会社が、この「オーストリアの模造紙」をさらに模造する。まとめると、
鳥の子紙
↓
局紙
↓
ジャパン・シミリ
↓
模造紙
だから、鳥の子紙を模造して、模造して、さらに模造したものが、今の模造紙ということになる。
【メモ】
◆イミテーションとレプリカは、どう違うのか。イミテーションが模造品で、レプリカは複製品かな? よく分からない。
◆英語のpaper、フランス語のpapierなどは、古代エジプトで作られた世界最古の紙「パピルス」が語源になっている。「ペーパー」と「パピルス」、ほら似てるでしょ!
◆日本で漉かれた最古の紙が、正倉院に所蔵されている。美濃、筑前、豊前の紙で、戸籍用につかわれていた。これらは702年(大宝2)のものだといわれている。
◆751年、中央アジア北部のタラス河畔で、高仙芝率いる唐の軍隊が、イスラムの軍隊に大敗し、多くの兵士が捕虜になった。この捕虜の中に、紙漉きの職人がおり、製紙術がイスラムに伝えられた。これがのちに、ヨーロッパへ伝搬されたようだ。
――と、高校のとき、世界史の先生が言ってた。
◆鳥の子紙や局紙をはじめ、和紙の原料であるガンピ、ミツマタ、さらにコウゾについて、すこし学習してみよう。
■ ガンピ(雁皮) ■
ジンチョウゲ科の落葉低木。日本特産で、東海道以西の暖地の山地にはえる。高さは約1.5mに達し、初夏に筒形の花を密生する。樹皮から雁皮紙をつくる。ガンピの栽培は非常にむずかしく、主として野生株から採皮するので,製紙原料としては特殊な用途にかぎられる。
■ ミツマタ(三椏) ■
「三叉」「黄瑞香」とも書く。ジンチョウゲ科の落葉低木。原産地は、中国。日本での主産地は、高知を中心とした四国・中国地方。樹高は1〜2m。枝が太く、3本ずつ分枝するところからの名前。早春、葉が出る前に、黄色の小花が蜂の巣のように球状に集まって咲く。日本では和紙の原料として古くから栽培されている。
■ コウゾ(楮) ■
クワ科の落葉低木。樹皮の繊維が強いので、ワシの原料とされる。ガンピの生産に限界があるのに比べ、コウゾの栽培は極めて容易である。また、山地の急斜面や田畑の畦、土手など他の農耕がむずかしいとされる土地でも栽培が可能であったので、コウゾで漉かれた紙(楮紙)の生産は、飛躍的に拡大した。
◆三つ又は、物干し竿をかけるときなどにも使う。(それは、ちょっと、違うんじゃないの?)
◆ナデシコ科にも「ガンピ(岩菲)」がある。草丈は50〜60p、6月から7月にかけて咲く朱紅色の花だ。
◆局紙もミツマタを原料としていたので、淡い黄色をしていた。だから初期の模造紙は、わざわざそれに近い色に着色されていた。
◆「半紙」という和紙がある。小学校の習字の時間によく使ったことと思う。でも、「半紙」って漢字から考えると「半分の紙」だ。一体、何の半分なんだろう?
平安時代中期の律令の施行細則である『延喜式』には、紙の規格寸法は、縦が1尺3寸(約39cm)、横が2尺3寸(約70cm)と書かれてある。この半分の大きさの紙が「半紙」だ。現在では、縦24〜26cm、横32〜35cmが標準で、半分にされることなく、はじめからこの大きさで漉かれている。
◆半紙を数えるときの単位に、「帖」がある。20枚で1帖だ。しかし、美濃紙なら50枚(大正までは48枚)、海苔なら10枚が1帖というから複雑だ。
◆印刷業などでは、紙1000枚を単位として、1連と数える。
◆図面などを書き写すときに使う半透明の薄い紙は、トレーシングペーパー。
中学の頃は、このトレーシングペーパーとカーボン紙を使って、教科書の図や絵をノートに書き移していた。勉強という意味では、その方がよかったのかなとも感じる。今では、もちろん簡単にコピーで済ませている。
◆その当時に読んでいた本などを引っぱり出して広げてみると、数ページにわたり穴があいてしまっていることがある。衣類や書物にこのような穴をあける害虫は、シミ。体長およそ1cmの昆虫だ。
漢字で「衣魚」とも「紙魚」とも書く。
◆たまたま入ったラーメン屋の店内の壁に、芸能人のサイン入り色紙が飾られていることがある。ずいぶん前のものだとシミにやられていたり、かなり黄色くなったりしていて、これこそ本当に「色紙」だという気がする。
新らしい色紙は白い。なのに、なぜ「色紙」なのか?
もともとは確かに「色紙」つまり、染紙であった。しかし、和歌を一定の大きさの白い紙に書くことが流行し、この紙も「色紙」と呼ばれた。紫式部(973ごろ〜1014ごろ)などは、「白き色紙」と呼んでいる。
◆そういえば、30枚入りくらいの色紙セットの中には、赤や青や金や銀に混じって、白い「色紙」も入っている。
◆紙がばらばらにならないようにホチキスを使うが、このホチキスを発明したのはアメリカのホチキスさん。「ホチキス」は商標名なので、一般には「ステープラー」と呼ばれている。JISの規格では、携帯用の10号の綴じ針で新聞紙を12枚以上綴じられることが条件となっている。
日本にステープラーがやってきたのは、1909年のこと。そのころは、まだ見本程度のものだったが、1914、15年ころから商品として大量に輸入され始めた。1918年ころには国産のものも生産され、1961年ころから急速に普及した。
◆投票には欠かさず行くようにしている。狭い囲いの中で、投票用紙に鉛筆で党名や候補者名や書いたあと、これまた欠かさずやっていることがある。
投票用紙を、小さく折りたたむのだ。1回や2回では面白くない。4・5回折りたたんで、手を放す。すると、見る見るうちに、用紙が元のように広がるのだ。グシャグシャにしても大丈夫。、パッと手を放すと、やはり元に戻る。
何て便利なんだ! この紙の発明で、開票作業もぐんと速くなっただろう。
これは、フィルム合成紙と呼ばれる紙で、耐水性、強さ、無塵性、防湿性にすぐれている。水に濡れても破れないので、ポスターや地図、封筒などに利用されている。投票用紙への利用もその一つ。
今度の選挙では、ぜひこの「グシャグシャ&パッ」をやってください。投票場へ行く楽しみが一つ増えたでしょ!
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