● 第十段 ● 「偕老同穴」という名の生物
「偕老同穴(かいろうどうけつ)」という言葉がある。結婚披露宴でよく使われる。「偕(とも)に年をとり、同じ墓に葬られる」の意味だ。つまり、夫婦の愛情が長く続くことをいう。
もともと、「偕老同穴」という言葉があったわけではない。これは合成してできた言葉だ。中国の戦国時代というから、前403年〜前221年のこと、中国最古の詩集『詩経』が編集された。主に諸国の民謡と周などの国の祭祀・儀式に関する歌からなっている書物だ。この『詩経』の中に、「偕老」が含まれる詩や、また「同穴」が含まれる詩もある。別々の詩に出てくる言葉が、後の時代になってくっついたわけだ。ドウケツエビにとっては、安全な住み家が手に入ってうれしいだろうけど、カイロウドウケツの方に何かいいことがあるのだろうか? また、カイロウドウケツの中に、2匹のエビが、それもペアで入っているなんて、うまくいき過ぎじゃないの?
一人で考えていても分からないので、日本でただ1ヶ所、カイロウドウケツがいるという名古屋港水族館の飼育展示課の方に教えていただいた。
ドウケツエビは、幼生のときに、かごの目を通って、カイロウドウケツの中に入る。中でエビは成長し、外に出られなくなり、一生をそこで暮らすことになる。エビにとっては、安住の地を得たわけだが、どうも、カイロウドウケツにとってのメリットはないそうだ。こういうのを、「片利共生」というそうだ。
オス・メスがうまくペアになって入っていることの不思議については、まだまだ研究の途中で、よく解明されていないそうだ。たとえば、オスが先に中に入っている場合には、あとからのオスは遠慮して出ていくとか、強い者が残るとか……。いろいろなパターンが考えられるが、なにせ深海の生物だけに研究がむずかしいのだそうだ。
名古屋港水族館では、運がよければ、かごの目を通して、中のドウケツエビまで観察できるそうだ。
しかし、そんなところにエビが住んでいるなんて、誰が気づいたのだろう。食べたのかな?
【メモ】
◆どうしてオスとメスが1匹ずつ入っているのか? オスとオス、メスとメスという組み合わせにならないのか? 答は簡単だった。とりあえず2匹が中に入る。そして、片方がメス、もう片方がオスになるという仕掛けだ。
◆強い方がメス、弱い方がオスになる――という説が有力だ。
◆漢の時代から儒教の経典とされたものに、「五経」がある。その一つが『詩経』。他に、『易経』『書経』『礼記』『春秋』。
◆中国の戦国時代は、周の支配が有名無実化し、周辺の諸侯が強大化、抗争が続いた時代。「戦国の七雄」と呼ばれる七大諸侯がいた。秦、楚、燕、斉、韓、魏、趙。最終的には、前221年、秦が他の6国を滅ぼし、統一を完成する。
◆ドウケツエビを見習って、夫婦はいつまでも円満にいきたいものだ。そこで、円満な夫婦を祝う行事、結婚記念式について整理しておこうと思う。1年目……紙婚式
2年目……綿婚式
3年目……革婚式
4年目……書籍婚式
5年目……木婚式
6年目……鉄婚式
7年目……銅婚式
8年目……青銅婚式
9年目……陶器婚式
10年目……錫婚式
11年目……鋼鉄婚式
12年目……絹婚式
13年目……レ−ス婚式
14年目……象牙婚式
15年目……水晶婚式
20年目……磁器婚式
25年目……銀婚式
30年目……真珠婚式
35年目……珊瑚婚式
40年目……ルビ−婚式
45年目……サファイア婚式
50年目……金婚式
55年目……エメラルド婚式
60年目……ダイヤモンド婚式(イギリス)
75年目……ダイヤモンド婚式(アメリカ)
◆婚約したときに贈られる指輪は、エンゲ−ジ・リング。結婚するときには、マリッジ・リング。結婚してひと区切りがつく、3年目や5年目に夫が妻に感謝の意を込めて贈る指輪は、エタニティ・リング。
◆童話の『おやゆび姫』が、結婚させられそうになった動物はカエル。
◆『源氏物語』の主人公、光源氏が最初に結婚したのは葵上。漏れ落ちのないように数えたところによると、光源氏と夫婦関係にある女性は、全部で13人もいた。葵上(あおいのうえ)
明石上(あかしのうえ)
空蝉(うつせみ)
朧月夜尚侍(おぼろづきよのないしのかみ)
女三宮(おんなさんのみや)
五節(ごせち)
末摘花(すえつむはな)
軒端荻(のきばのおぎ)
花散里(はなちるさと)
藤壺中宮(薄雲女院)
紫上(むらさきのうえ)
夕顔(ゆうがお)
六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)
◆知らずに父を殺して母と結婚し、最後に盲目となって放浪する運命を描いた、ソフォクレス(BC496?〜BC406)作のギリシャ悲劇は、『オイディプス王』。フロイト(1856〜1939)が提唱した「エディプス・コンプレックス」は、この話にちなむ。これは、男児が母親に愛着し、父親を競争相手として憎む心理のこと。
この逆パタ−ンは、「エレクトラ・コンプレックス」。
◆ロ−マ神話では、ジュノ−は、女性と結婚生活の保護神。ジュピタ−の妻でもある。
◆「チャ〜ンチャーチャチャンチャンチャンチャンチャーチャカチャチャンチャンチャン」
でおなじみの『結婚行進曲』の作曲は、メンデルスゾ−ン(1809〜1847)。シェ−クスピア(1564〜1616)の『真夏の夜の夢』という劇のために作曲されたものだ。
◆「チャンチャーチャチャ〜ン、チャンチャーチャチャ〜ン」
でおなじみの『結婚行進曲』は、ワ−グナ−(1813〜1883)が楽劇『ロ−エングリン』のために作曲したもの。この劇に登場するエルザ姫が、白鳥の騎士と婚礼をあげる際に演奏される曲だ。
◆「僕の髪が肩まで伸びて、君と同じになったら」
と歌ったのは、吉田拓郎の『結婚しようよ』。結婚式の会場で
「くたばっちまえ!」
と歌うのは、シュガーのヒット曲『ウェディングベル』
◆一生結婚せず、
「私は、イギリスと結婚した」
と言ったイギリスの女王は、エリザベス1世(1533〜1603)
◆フランスで、女性が結婚できる最低の年齢は15歳。
◆では、最後に、日本での婚姻を規定するもっとも根幹となる条文を紹介しておこう。
日本国憲法第24条[家族生活における個人の尊厳と両性の平等]
婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
(2)配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。