● 第五十一段 ● しし座のあなた
第四十九段で、れお君の話が出たが、夜空のれお君のことを忘れていた。しし座について勉強してみよう。
しし座 (★:1等星、☆:2等星、。°:3等星以下)
μ。
ζ。 。 λ
δ。 γ。 ε °
。
β☆ °
。 ★α
。 ° 。
。
。
ライオンに見ようと思えば、ライオンに見えないこともない。この星座にライオンを当てはめて考えたのは、昔のバビロニアの人々。バビロニアには、当時、ライオンがたくさんいたそうな。バビロニアが栄えていた4000年ほど前、夏至の日のさんさんと輝く太陽が、この星座に位置していたので、百獣の王ラ
イオンの姿がぴったりだったというわけだ。
このライオンは、春、北斗七星と背中合わせの位置によく見られる。だから、夜空にこの星座を見つけたいときは、まず北斗七星を見つけることだ。星座全体の大きさも、ほぼ北斗七星くらいだ。胸の1等星レグルスから尾の2等星デネボラまで約25度ある。
特徴は、頭の部分の裏「?」型。これは、西洋で使われる草刈りの鎌に似ているので、「しし座の大鎌」と呼ばれている。
星座を構成する星は、明るいものから順番に、ギリシャ文字を使ってα星、β星、γ星……と呼ばれている。しし座では、固有名をもつ星が多い。今、わかる分だけ紹介しておく。
α星 小さな王 レグルス(ラテン語)
獅子の心臓 カベレセド(アラビア語)
β星 獅子の尾 デネボラ
γ星 獅子の額 アルギェバ
δ星 獅子の背 ズール
ε星 獅子の頭の南部 ラス・エラセド・アウストラリス
ζ星 髪の房 アダフェラ(アダルフェラ)
μ星 獅子の頭の北部 ラサラス(ラス・エラセド・ボレアリス)
2001年11月19日、早朝3時現在、見上げた空は全天が雲。期待していたのに、しし座流星群の「し」の字も見えやしない。
【メモ】
◆ギリシャ文字を使って、星を示すことがあると述べたが、中学校で習った英語のアルファベットに比べ、ギリシャ文字のアルファベットというものは、あまり知られていないようだ。
英語のアルファベットは26文字。ギリシャ文字の場合は24文字ある。スラスラ言えると、なかなかかっこいいかもしれない。大文字、小文字、読みの順で、以下に紹介しておこう。Α α アルファ Β β ベータ
Γ γ ガンマ Δ δ デルタ
Ε ε イプシロン Ζ ζ ゼータ
Η η エータ Θ θ シータ
Ι ι イオタ Κ κ カッパ
Λ λ ラムダ Μ μ ミュー
Ν ν ニュー Ξ ξ クサイ
Ο ο オミクロン Π π パイ
Ρ ρ ロー Σ σ シグマ
Τ τ タウ Υ υ ユプシロン
Φ φ ファイ Χ χ カイ
Ψ ψ フサイ Ω ω オメガ
◆しし座といえば、ヘラクレスが登場するよく知られた神話がある。
ヘラクレスは、大神ゼウスとアルクメネの子。ゼウスの后ヘラに憎まれ、従弟エウリステウスの奴隷となり、12もの難行を強いられる。その最初の冒険が、ライオン狩りだった。
ネメアの森には、牛や羊、人間までも食らうという大きなライオンいた。持っていた弓矢は全く役に立たず、大木を根こそぎひっこ抜いて作ったこん棒でライオンを殴った。ひるんだところで、喉を両手でつかみ、持ち前の怪力で絞めつけた。さすがのライオンもここまでだった。
ヘラクレスといえば、肩に布のようなものをかけているが、あれは先のライオンの皮を剥いだものなのだ。
◆「ヘラクレス十二功業」を紹介しておこう。
( 1)ネメアの森にすむライオン退治
( 2)レルネの沼にすむヒュドラ(水蛇)退治
( 3)ケリュネイアのシカの生け捕り
( 4)エリュマントンス山のイノシシの生け捕り
( 5)エリス王アウゲイアスの牛小屋掃除
( 6)ステュンファロス湖畔の鳥退治
( 7)クレタ島の雄牛の生け捕り
( 8)トラキア王ディオメデスの人食い馬の生け捕り
( 9)アマゾンの女王ヒッポリュッテの帯の奪取
(10)ゲリュオンの飼牛の生け捕り
(11)世界の西の果てにあるヘスペリデスの園から黄金のリンゴを取ってくる
(12)冥府の番犬ケルベロスの生け捕り
◆太陽が、天球を通って行く道を「黄道」というが、黄道の上には12の星座が配されている。しし座も、その黄道上にある。太陽がしし座に入るのが8月10日頃。レグルスの前を通るのが、8月20日頃だ。といっても、太陽が輝いているので、当然しし座は拝めない。
◆毎年11月の半ばには、「しし座流星群」が見られる。γ星近くを中心に、流星が飛び交う。
1833年11月12日、アメリカ東部にシャワーのように流星が降った。1時間に約35000個、これが6時間近く続いたそうだ。また、1799年11月11日、ドイツの地理学者フンボルト(1769〜1835)は、南米のベネズエラでしし座流星群に遭遇している。このときは、1時間に70万から100万の流星が見られたという。
ちょっと想像がつかないな。
◆2002年までのしし座流星群は、流星ショーが期待できる。流星群の母天体となるテンペル・タットル彗星が接近するからだ。この彗星の周期は、32.9年。前回訪れたのは、1965年だった。
◆「今はしし座のあなたに夢中よ〜」は、山口百恵の『乙女座宮』。
◆アサガオには、桔梗咲き、采咲牡丹、獅子咲牡丹などの種類がある。
◆獅子舞いに使う獅子の頭を「獅子頭」というが、動物にも、植物にも「シシガシラ」が存在する。
植物の「シシガシラ」は、日本特産のシダ。
動物の「シシガシラ」は、頭上にコブがある金魚。ランチュウやオランダシシガシラが有名だ。あのコブは、脂肪の塊。
ちなみに、モーパッサン(1850〜1893)は、『脂肪の塊』というタイトルの短編小説を書いている。しかし、これは、金魚の話ではない。
◆スリランカの国旗には、険を持ったライオンが描かれている。これは、スリランカの最初の王であるシンハラ王が、ライオンの孫であるという建国説話にちなんだものだ。だから、スリランカは「獅子国」と呼ばれることもある。
首都は1985年の1月に、それまでのコロンボからスリ・ジャヤワルダナプラ・コッテに移っている。
◆■ 獅子心王 ■
イギリスの王、リチャード一世(在位1189〜99)の異名。第3回の十字軍で、アイユーブ朝エジプトのサラディンに対し孤軍奮闘し、有名を轟かせた。フランス遠征中に戦死。
◆普賢菩薩、文殊菩薩は、ともに釈迦如来の脇侍(じきょう)。普賢菩薩は釈迦如来の右(向かって左)、文殊菩薩は左に侍する。普賢菩薩は白象に、文殊菩薩は獅子に乗っている。
◆都市対抗野球大会の優勝チームに贈られる優勝旗は、「黒獅子旗」と呼ばれている。
◆サザエさん一家が飼っているネコの名前は「たま」。『忍者ハットリ君』に登場する犬は「シシ丸」。
◆演説会などで熱弁をふるうことを、「獅子吼(ししく)」というが、もともとは仏教の用語。獅子が一度吼(ほ)えただけで、すべての動物を恐れさせるように、仏が正道を説いて外道・悪魔を恐れさせることをいう。
石川県には獅子吼高原があり、ハイキングやスキーが楽しめる。
◆仏像彫刻を安置するための台座には、その全面に獅子の彫刻を持つものがある。この「獅子座」は、釈迦その人を象徴するものであり、同時に説法のときに獅子吼した釈迦を象徴するものであろうといわれている。
◆強い物に、さらに強くなる力が備わること。「鬼に金棒」「寅に翼」「獅子に鰭(ひれ)」。
獅子に鰭をつけたとところで、そんなに強くなるとは思えないが、鰭をつけるということは、水陸両用になるということだ。陸上で力を持つ獅子が、魚の鰭をつけて水の中でも力を発揮するようになるのだから、これはやはりすごいことなのだ。
◆味方でありながら、味方に損害をあたえるものは、「獅子身中の虫」。【参考文献】
・カラー天文百科 平凡社
・星の神話・伝説 野尻抱影 講談社学術文庫