● 第百四団 ● これって何の順番?
加山雄三さんは、ヒット曲『君といつまでも』の中で、「幸せだなぁ」と歌っているが、私は、毎年12月になると、
「師走だなぁ」
と思う。
「もうすぐ正月かぁ」
とも思う。どっちを先に頭に思い浮かべるかで、その人の何かがわかるかも知れないし、何にもわからないのかもしれない。ただ確実なのは、その年に残された日々が、すくなくなってきているということだけだ。
残りすくない日数をいくら数えたところで、忙しさに変化はないから、次の年のカレンダーでも見て、気分に余裕を作ってみようと考えるのも、これまたこの時期の恒例になっている。
そういうわけでカレンダーを見ていたら、また、頭の中に疑問が湧いてきた。このまま新年を迎えるのも気持ちが悪かったので、悔しかったが稲田君に尋ねることにした。
「聞きたいことがあるんだ」
「どんなこと?」
「2つあるんだ。1つめは、どうして1週間が7日なのかってこと」
「また、カレンダー絡み? で、もう1つは?」
「どうして、日曜の次の日が月曜なのか? というより、1週間の曜日の順番は、一体何の順番なの?」
「う〜ん、なるほど、いい質問だ。じゃあ、1つ目から考えようか……」
「考える? 教えてくれないの?」
「だって、こんないい質問、すぐに答えを言ったらもったいないじゃない」
「そうか……」
「で、まず、『1週間がどうして7日なのか』だね。星田君もすこしは考えたんだろ?」
「そりゃあね」
「どんなこと」
「すぐに思いついたのは、『旧約聖書』に載っている天地創造だよ」
「ああ、神は6日かかって万物を作った。7日目を安息日とした――ってやつだね」
「そう、それそれ」
「ほかには?」
「もうだめ……」
「どうして、1週が7日なのかっていうのには、多くの説があってね、星田君のいう『天地創造』もその中の一つなんだ」
「やっぱりね。ほかにはどんな説があるの?」
「古代バビロニアではね、太陰暦が使われていたんだ」
「世界史で習ったね」
「じゃあ、わかるよね。太陰暦というと?」
「月の満ち欠けを暦に利用していたんだよ」
「その通り。で、月は、新月→半月→満月→半月→新月というふうに、ほぼ7日ごとに区切りのいい形になるんだ」
「ああ、それで7日で一つの期間としたのか!」
「……という説もあるってことだよ。でも、ま、いちばん有力なのは、『天地創造』だね」
「ありがとう。次は、曜日の順番について教えてよ」
「古代エジプトでは、太陽暦を使用していたのは知ってるね。そこでは、紀元前のあまり遠くない時代に、7時・7日といった占星術的周期が発生した」
「7時・7日?」
「7時間を1つの周期、7日を1つの周期とする考え方が発生したんだ」
「ふ〜ん」
「で、この周期に当時知られていた地球以外の太陽系の天体、日、月、水、金、火、木、土が組み込まれて『曜日』が発生した。だから、『日・月・火……』の順番を作ったのは、エジプト人だと考えられているんだ」
「でも、それって何の順番なの?」
「ここからが面白いんだ。ちょっと複雑になるけど……。さっきから登場している日、月、水、金、火、木、土だけど、この時代には、地球から遠い順に、
土・木・火・日・金・水・月
とされていたんだ」
「ちょっと待ってよ。順番が違うんじゃない?」
「どこが?」
「『土・木・火・月・金・水』になるはずだよ」
「どうして?」
「ほら、太陽系の惑星の並ぶ順番は、『水・金・地・火・木・土・天・海・冥』だろ。そこから地球や天王星、海王星、冥王星をのぞいて、遠い順に並べ変えたら、『土・木・火・金・水』。これに月を参加させたら、『土・木・火・月・金・水』になるはずだけど……」
「いやいや、星田君が勘違いをしてるんだ。この順番はあながち間違いとはいえないよ。だって、太陽から遠い順番じゃなくて、地球から遠い順番だからね。水星の方が金星よりも地球の近くに位置しているってことも十分にあり得るからね」
「そうか。で、その先は?」
「紙と鉛筆を用意してよ。この順番で、7つの星を1日の24時間に配列していくんだ。1日目の第1時は『土』、第2時は『木』って具合に……」
「待ってよ……、じゃあ、こうなるの?」
1 6 12 18 24
土木火日金水月土木火日金水月土木火日金水月土木火
「そうそう。この日は『火』で終わっているから、次の日の第1時は『日』ということになる。同じことを7日繰り返してごらん」
「わかった。書いてみるよ」
1 6 12 18 24
1
土木火日金水月土木火日金水月土木火日金水月土木火
2
日金水月土木火日金水月土木火日金水月土木火日金水
3
月土木火日金水月土木火日金水月土木火日金水月土木
4
火日金水月土木火日金水月土木火日金水月土木火日金
5
水月土木火日金水月土木火日金水月土木火日金水月土
6
木火日金水月土木火日金水月土木火日金水月土木火日
7
金水月土木火日金水月土木火日金水月土木火日金水月
「できたよ、稲田君」
「うん、間違いはなさそうだ」
「でも、これでフィニッシュなの?」
「そうだよ」
「うそ! なんで?」
「ほら、左端を縦に読んでごらんよ!」
「土・日・月・火・水・木・金。おおっ!」
「だろ。つまり、その日を表す指標として、第1時に配置された星を採用したんだ。これが『曜日』として使われるようになったというわけさ」
「ところで、西暦2001年1月1日は、何曜日なの?」
「21世紀の最初の日だね。知ってるよ、月曜日さ」
「なんだ、月曜日か」
「なんだってなんだよ」
「めでたそうだから、休みにしちゃえばいいのに」
「1月1日は元旦だよ。もともと休みだ」
【メモ】
◆今のカレンダーでは、週の始めが日曜になっている。紹介した方法だと、土曜日が週の始めになってしまう。これは、ユダヤの週の第1日(休息日)と日曜日を一致させたからである。一致させたのは、東ローマの皇帝コンスタンティヌス帝。彼は、313年の「ミラノ勅令」でキリスト教を公認し、自らもキリスト教徒となったことで知られている。また、321年には、日曜日を休日とする7曜制を導入している。
◆日曜日が右端に並んでいるカレンダーも増えてきている。土日が連続して休みというのがかなり定着してきているから、この方が予定などを書き込みやすい。
◆そうであるならば、この際、原点に戻って、週の始めを土曜日にするという手もある。
◆今日が日曜日だとすると、50日後は月曜日。
◆イエス・キリストの復活を祝うイースター(復活祭)は、キリスト教で最古・最大の祝日だ。これは、春分の後の最初の満月の次の日曜日に行われる。
◆大相撲の本場所は1年間に6場所90日あるが、このうち日曜日は18日。
◆毎年5月3日、4日に博多で行われる祭りは「ドンタク」。これは、オランダ語で「日曜日」を意味する。
◆スペイン語で「ドミンゴ」といえば、日曜日のこと。
◆『ロミオとジュリエット』が、初めて出会ったのも日曜日。
◆1905年1月22日、「血の日曜日事件」が起こっている。ロシアの首都ペテルスブルグで、平和を求めて行進する民衆に対して軍隊が発砲し、2000名を越える死傷者を出した事件だ。民衆は皇帝への信頼を失い、労働者のストは全国に波及し、ロシア第一革命へと進展した。このため、ロシア政府は日露戦争を続ける自信と余力を失い、講和に傾いた。
◆フランスの画家スーラの代表作は、『グランドジャット島の日曜日の午後』。印象派の技法を理論化して、点描画という独自のテクニックを開発した画家だ。
◆日本最初の週刊誌は、「サンデー毎日」。大正11年3月に創刊されている。
◆日本最初の少年週刊誌は、「週刊少年マガジン」と「週刊少年サンデー」。1959年(昭和34)3月17日に、2誌が創刊されている。
◆ダニエル・ブーンの『ビューティフル・サンデー』という曲もあった。1976年(昭和51)の『紅白歌合戦』では、田中星児が日本語バージョンを歌っていた。ちなみに、田中星児は、NHKの『おかあさんといっしょ』の初代歌のお兄さん。
◆ボストンマラソンが行われるのは、毎年4月の第3月曜日。
◆ハッピー・マンデー法案が通って、成人の日と体育の日は月曜日に固定されることになった。日本ではまだ慣れていない感もあるが、アメリカの連邦法定休日には、「ハッピー・マンデー」が多い。いい機会だから、全部の休日を紹介しておこう。
1 1月1日 新年 2 1月第3月曜日 M.L.キング誕生日 3 2月第3月曜日 ワシントン誕生日 4 5月最終月曜日 メモリアル・デー(戦死者追悼日) 5 7月4日 独立記念日 6 9月第1月曜日 レーバー・デー(労働者の日) 7 10月第2月曜日 コロンバス・デー(C.コロンブスを記念する) 8 11月11日 退役軍人の日 9 11月第4木曜日 感謝祭 10 12月25日 クリスマス
◆銀行が休みだったら、一般の社会活動もやりにくくなるのは確か。だから、イギリスの国民の祝祭日は、「銀行休業日」と呼ばれている。こちらも、月曜日に設定されているものが多くある。
1 1月1日 元旦 2 1月2日 スコットランドのみ 3 3月17日 聖パトリック祭(北アイルランドのみ) 4 復活祭直前の金曜日 聖金曜日 5 復活祭の翌日 イースター・マンデー(スコットランド以外) 6 5月の第1月曜 元来は5月1日の五月祭 7 5月の最終月曜 元来はホイットマンデー=聖霊降臨祭の翌日 8 7月12日 ボインの戦い記念日(1690年ウィリアム3世が先王ジェームズ2世の率いるカトリック勢を破った日。北アイルランドのみ) 9 8月の第1月曜 スコットランドのみ 10 8月の最終月曜 スコットランド以外 11 12月25日 クリスマス 12 クリスマス以後の最初の週日 ボクシング・デー。郵便集配人、警察官、使用人などに小箱に入れた贈物をする日 ◆イギリスの場合、これらの日が土・日と重なった場合は、重なった日数だけ次の週日へ振り替えられる。日本では、ご存知の通り、日曜に重なった場合にだけ振り替えが行われる。
◆爪を切ることに関して、ヨーロッパでは次のような伝承がある。
月曜日……健康が守られる
火曜日……裕福になれる
水曜日……新しい知らせがある
木曜日……靴を新調できる
金曜日……悲しいことが起こる
土曜日……翌日に真実の愛が得られる
日曜日……用心を。次の月曜から土曜までに悪魔があなたをさらう
特に日曜日の爪切りは嫌われているようだ。「日曜日に爪を切るくらいなら、生まれてこなかった方がよかったくらい……」などという歌まであるそうな。
◆くしゃみに関しても、英語が話される地域では、こんな伝承が残っている。
月曜日……危ないことが起こる
火曜日……見知らぬ人にキスしてしまう
水曜日……手紙が着く
木曜日……もっとよいことがある
金曜日……悲しいことが起こる
土曜日……翌日に恋人に会える
日曜日……無事を祈れ。次の月曜から土曜まで悪魔につかまえられる
あれ? 爪切りと何だか似てるなぁ。
◆ロシア民謡の『一週間』で、日曜日に買ってきたのは、糸と麻。小学生の頃、
「『朝』を買ってどうするの?」
と、ずっと思っていた。
◆月曜日に炊いた風呂に火曜日に入るというのは、いかにも不経済だとも思った。
◆いや、もしかしたら、月曜の夜遅くに風呂を炊いて、日付けが変ってから入浴したのかもしれない。
【参考文献】『暦入門』渡邊敏夫(雄山閣)