★雑木話★
ぞうきばなし

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 ● 第百四十段 ●  缶に入った牛乳

 この夏、北海道へ旅行に行った。旅行の2日目に釧路湿原を訪れたのだが、そのことは、第百三十二段で述べた。今回は、今から帰るぞという段階のお話。
 場所は、旭川空港。飛行機の離陸までにはまだ時間があったので、空港内の土産屋をのぞいているときのことだった。当時2歳の脩(なお)が、言い出した。
「牛乳がほしい」
「おお、おお、よしよし。ここは北海道だ。牛さんがいっぱいいるんだよ。牛乳くらい簡単に見つかるよ」
と思っていたのだが、いくつかの店をさがしても見つからないのだ。こういうときは、店の人に聞くにかぎる。
「あの〜、牛乳置いてますか?」
「牛乳ですか? ありませんね……、あ、そうそう、缶入りタイプのならありますよ」
「缶入りですか!?」
 店員さんが探してきてくれたものは、190g入りの小さいタイプの缶だった。確かに「ビタミン牛乳」と書いてある。
「これしかないですか?」
「これしかないですね」
「これください」
 由希子と相談した。
「『ビタミン牛乳』だってさ、しかも缶入りだよ」
「大丈夫?」
「そりゃ、大丈夫だろうよ。でも、一度、飲んでみるよ」
 と、試飲してみた。
 牛乳だった。何かのビタミンが特に多いのだろうけど、味は牛乳だった。
「なんだ、牛乳だ」
 すこし拍子抜けしたが、目的のものをゲットしたので、脩に渡した。彼は、おいしそうに、ゴクゴクと飲んでいた。
「缶入りの牛乳ねぇ……」
 飲み干したあとの缶を握りしめながら考えた。初めての缶入りだ。北海道ではポピュラーなのだろうか? なぜ、缶入りなのだろうか? そういえば、ペットボトルに入った牛乳なんて見たことがないけど、あるのだろうか? 疑問が次々に湧いてきた。しかし、もう飛行機が出る。缶に明記されていた「お客様相談室」の電話番号をメモして、搭乗口へと向かった。
 それから四ヶ月が過ぎた。お客様相談室に電話してみた。大変丁寧な方が応対してくださった。
「あの〜、この夏、旭川空港でそちらの『ビタミン牛乳』を飲んだのですが、あれって、缶入りですよね」
「はい、そうですね」
「缶に入った牛乳なんて珍しいですよね。何か理由があるのかなと思いまして、お聞かせいただければと……」
「なるほど、そうですか。ビタミン牛乳の最大の特徴は、『長期保存ができる』ということです。ですから、船員さん、自衛隊の方、頻繁に物資を運搬することがむずかしい僻地にお住まいの方などにご利用いただいております。また、一時期に大量に購入して頂いて保存するということが可能なので、病院などでもご利用いただいております。災害時の備蓄用にもなりますね」
「ということは、長期保存のメリットをいかせるような場所で利用してもらうことを目的に作られているということですね」
「そういうことです」
「で、どれくらいもつのでしょうか?」
「1年間もちます」
「1年も!」
「はい、あと特徴としましては、缶に入っていますから、アウトドアでの利用ができるということ、寒い時期には温めて飲んでいただけるということがあります」
「なるほど、いろいろと利点があるのですね。しかし、その割にはあまり見かけませんが……」
「そうですね。190gで105円ですから牛乳としてはかなり割高ですし、また、もともと牛乳というものは、長期保存させるものではありませんので、缶に入れる必要がないわけです。ただ、有名百貨店などには、置いてある場合があると思います」
「そういうことだったのですか」


【メモ】

◆市場に流通している牛乳類は、「牛乳」「加工乳」「乳飲料」に分類されている。
・牛乳……しぼったままの牛の乳(生乳)を加熱殺菌したもの。水や添加物を混ぜることは禁じられている。
・加工乳……脱脂粉乳や乳脂肪などが加えられたもの。濃厚牛乳や低脂肪乳などの種類がある。
・乳飲料……牛乳や脱脂乳を原料とし、これに種々の成分を加えて製造した飲料。ビタミン、ミネラルなどを加えた「栄養強化タイプ」、果汁、コーヒー、甘味などを加えた「嗜好タイプ」などがある。

◆牛乳1本分の栄養。(200ml=206g)
   エネルギー……128kcal
   たんぱく質……6.2g
   脂質……………7.2g
   糖質……………9.5g
   カルシウム……206mg
   鉄………………0.2mg
   ビタミンA……247IU
   ビタミンB1……0.06mg
   ビタミンB2……0.31mg

◆本文に登場した「ビタミン牛乳」は、もちろん「乳飲料」の表記があった。また、これには、普通の牛乳には含まれていないビタミンDやEが添加されているそうだ。

◆ビタミンAの国際単位(IU)は、

   1IU=0.3μg レチノール

と規定されている。
 また、日本人のビタミンAの1日当りの所要量は、

   0〜1歳……1000〜1300IU
   1〜15歳……1000〜1500IU
   15歳以上……1800〜2000IU
   授乳婦……3200IU

とされている。
 さらに、ビタミンDの国際単位(IU)は、

   1IU=0.025μg 結晶ビタミンD3

と規定され、日本人1日当たりの所要量は、

   0〜6歳……400IU
   6歳以上……100IU
   妊婦……400IU

とされている。ただし、この「1日当たりの所要量」については、本当にそうなのかということで、議論が続いている。

◆レバーや魚を牛乳に漬けておくと、臭みが取れる。

◆送っていただいたパンフレットには、「牛乳を料理に利用するとコクがでる」とあった。たとえば、
  ・炊き込みご飯の水の分量の半分を牛乳にかえる
  ・茶碗蒸しのだし汁を全量牛乳にかえる
  ・団子やうどんを作るときに水の代わりにする

◆さて、ついでにといえば失礼だが、「どうして牛乳をペットボトルに入れないのか?」についても尋ねた。
「もちろん入れることはできます。しかし、先ほどもいいましたように、牛乳というものは日持ちのしないものなのです。ですから、10℃以下の冷蔵保存をお願いしております。そのこととペットボトルとが相容れないのです。ペットボトルに入れた牛乳を外に長時間持ち出すなんてことがあっては困るわけです。紙パックなら、口をあけたものを外に持ち出すことはおのずと困難になりますから、ちょうどいいわけですね」
 また、
「ペットボトルには殺菌の方法、内圧の関係で問題があります」
 また、
「現在、牛乳をペットボトルに詰めるという設備がありません」

 つまり、簡単にいうと、牛乳は、ペットボトルのような「アウトドア派」の容器に入れるような代物ではないということだ。


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